みちくさの達人
“口福”のかき氷を求めて、日光天然氷の蔵元「松月氷室」へ

ここ数年、かき氷が大ブームです。“天然氷”で作るかき氷を味わったことはありますか? 綿飴のごとくふわふわで、舌触りはなめらか、まぼろしのような口溶け……。独特の食感は感動ものです。
栃木県日光市に天然氷を作る老舗があると聞き、出かけました。

東武鉄道下今市駅から歩いて約15分。日光街道の今市宿として栄えた地区に、明治27年創業の天然氷問屋「松月氷室(しょうげつひむろ)」本店はあります。店頭では通年、天然氷のかき氷が味わえるため旅行者が絶えません。

数あるメニューの中で人気を二分するのがこれ、「生いちごプレミアム」(800円・税抜)です。栃木県は生産量日本一を誇るイチゴ王国。甘くて香り高いフレッシュな県産イチゴを、ソースに、中身に、たっぷりと使用しています。

もうひとつは、「メロメロ アールスメロン」(1300円・税抜)。高級メロンのアールスメロン半分をまるごと使い、種部分をくり抜いて器にしてしまった一品です。みずみずしいメロンの果肉と練乳のマッチング。締めにはメロンの器に炭酸水を投入して、果肉をこそぎながらメロンソーダを楽しむというオマケ付きです。

どのメニューもかき氷の盛りが大きくてボリュームがありますが、最後まで食べ飽きることがありません。口の中が冷たくなりすぎることもありません。これは天然氷の成せる技だそうです。

そもそも天然氷とはどういうものなのでしょうか?
「松月氷室」四代目の吉新昌夫(よしあらまさお)さん(愛称・昌さん)に教えていただきました。

「天然氷は急速に凍る冷凍庫の氷と違って、真冬の寒さを利用してゆっくりと凍ってできるものです。氷池に山の湧水を引き入れて2週間ほどすると、不純物の少ない固い天然氷が誕生します。」

なるほど、純度が高い=固い氷で、だから細かく削っても溶けにくく、ふわふわというわけです。氷づくりの期間はもちろん、それ以外の時期も、清掃や環境整備がものを言う仕事です。なんせ自然をそのまま凍らせて味わうわけですから!

2018年2月上旬。天然氷の切り出しに立ちあうことができました。向かったのは本店から車で10数分の白沢池。山あいの静かな場所に大きな氷池(長さ54m×幅22m)が広がり、一面に氷が出来上がっていました。晴れた日でも直射日光が当たらない山の陰にあり、山手の石垣は明治時代、初代が手積みしたものが現役で使われています。

約330坪ある氷池に山の清冽な湧水を注ぎ約2週間、氷の厚みが13〜15cmほどになったら切り出すタイミングです。当日は松月氷室の天然氷を愛する首都圏のかき氷屋の店主たちが手伝いに来ていました。
「店で出す氷のルーツを知っていると安心できますし、お客様も喜んでくださいます」と、みなさん誇らしげです。

氷の表面に引かれた縦横の線にあわせて、電動の氷カッターを動かし切り分けていきます。そして引き上げられた氷は、竹製のレールに載せ、人力で滑らせて運ぶという力技。先が鍵型になった「とび口」という道具で氷をたぐり寄せながら、流れ作業で氷室(ひむろ)に並べていきます。1枚の氷の重さはおよそ40kg、ブロックアイス(1貫目・約3.75kg)が10~12貫目とれます。年間の生産数は5,500枚(220t)ほど。

木造平屋建ての氷室は戦前からある年代物。柱には狂いの少ない檜、内側には水濡れに強い栗が使われ、氷には保冷剤として檜のおがくずがかけられています。氷室の氷は夏まで溶けずに持つそうで、先人の知恵には関心させられることばかりです。
「天然氷づくりの基本は明治の頃とかわっていません。だから初代が手がけた施設や昔の道具をそのまま使えるのです」と、昌さんは話します。

平安時代の『枕草子』にも登場するという天然氷。明治時代初期に海外から機械製氷が導入され、大正時代をピークに氷の蔵元が激減、滅多にお目にかかれないものになりました。

天然氷づくりは現在、全国で7軒(栃木県日光市、長野県軽井沢町、埼玉県長瀞町、山梨県北杜市、山梨県河口湖町)しか行われていません。そのうち日光市には3軒あり、「松月氷室」は一番の老舗です。空前の天然氷ブームもあり、高品質の天然氷は需要が増すばかりです。
「ですが手作りのため、生産には限界があります。稀少な天然氷を、大事に使ってくれる人にお売りしたい」と昌さん。

「顔が見える売り買いが好き」と言い、ネット販売は行わず、店頭販売のみです。ブロックアイス一貫目(950円・税抜)で販売しています。ほかにロックアイス、持ち帰り用かき氷なども用意しています。旅みやげに天然氷を求めて、自宅でウイスキーのオン・ザ・ロックなんていうのも最高ですね。

生イチゴソースと生クリーム&ミルクのクレープ 580円(税抜) 生イチゴソースと生クリーム&ミルクのクレープ 580円(税抜)

本店では前述の二大かき氷のほか、自家製シロップのかき氷や季節限定のフルーツ味などをバラエティ豊かに提供しています。
また本店から徒歩15分にある大谷橋(だいやばし)支店では、かき氷のほかに、スイーツやサラダのクレープも販売中です。

進化する天然氷のかき氷。今や、かき氷は夏だけのものではないのです。
「日光天然氷のかき氷はタイムカプセルですよ。日光の冬が生み出した美味しい天然氷を、一年中味わえるのですから」と昌さん。なんてロマンチック!天然氷の町・日光へぜひお出かけくださいね。

松月氷室 本店
  • 住所栃木県日光市今市379 MAP
  • アクセス今市駅から徒歩6分、下今市駅から徒歩9分
  • 営業時間11:00~18:00(L.O.17:30) ※冬季短縮営業有り
  • 定休日月曜(祝日の場合は翌日)
  • TEL0288-21-0162
  • 駐車場無料
松月氷室 大谷橋店
  • 住所栃木県日光市今市1527 MAP
  • アクセス上今市駅から徒歩8分
  • 営業時間11:00〜17:30(L.O.17:00)
  • 定休日月曜(祝日の場合は翌日)
  • TEL080-7840-8719
  • 駐車場無料
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