※この鼎談は2020年5月7日に、オンラインで行われました

Vol.2「三密回避」と「マイクロツーリズム」
これが旅のキーワード

星野:
和田先生のお話だと、中長期で考える必要がある中で、我々の生活は新しいスタンダードに移行すると。この間、どういう旅がありえるんだろうと考えなくてはいけないですね。
ヨッピー:
そうですね。元に戻る、というよりは、コロナ前、コロナ後で、そもそも社会の仕組みが変わるんじゃないかという話もあります。たとえば出張の需要はコロナ後でも元には戻らないんじゃないか、とか。全国各地の人と、今日みたいにテレビ電話で打ち合わせすればそれでいいよね、って多くの人が気付いちゃった。など。

でも、これは個人的な意見ですが、観光という遊びの部分に関しては、これからも残るんじゃないかと思ってます。そもそも僕が観光メディアをやり始めたのは、自分自身が旅行好きであるのはもちろんなのですが、どんどん世の中がグローバル化するなかで、生活が便利になって余裕ができると、旅行の需要は伸び続けるだろうと思ったからなんです。スマホ1台で仕事をしながら世界中を旅している、というようなライフスタイルに憧れる人は多いんですが、それこそ「旅」の需要の強さの表れだろうと思って。

だから長期的には旅行の需要そのものがなくなるという心配はしていないんですが、この苦しい時期をどう乗り越えるかですね。
星野さんの頭の中にはもう何か打つ手があるのでしょうか。

旅の本来の需要が戻るまで、苦しい時期をどう乗り越えるか。星野のアイデアとは

星野:
まず旅行のスタイルを変えていかなければならない。旅行者が安全に感じてくれなければ戻ってきてくれないので。「こういう形態が安全なのだ」と打ち出していこうと思います。
具体的にいろいろ出てきてはいますが、まず今のところは密閉空間、密集場所、密接場面という3密回避を徹底した滞在を準備しています。ヨッピーさん、それをぜひ取材に来てください。
ヨッピー:
はい、ぜひ(笑)でも、これまでは3密って高いホスピタリティに結びつくものでしたよね。屋内の空間で、スタッフがお客様のすぐ近くでよりそいながら心地よい接客をするっていうのが良しとされていた。
星野:
そうですね。ただ今は新型コロナウイルスのことをお客様もご存知なので、3密を回避したサービスを受け入れていただけます。
例えば星野リゾートではもうビュッフェをやめました。厨房からお部屋にお届けしてお部屋でも食べていただけるし、レストランでは間隔をすごく空けた場所を作り、そこで食べていただくような工夫を行っています。

また、これまで温泉旅館の場合は、チェックインの際、お客様に景色のいい場所に座っていただき、お茶を出していたんですよ。でもこれからは、それだと他のお客様とのコンタクトが出るので、すぐお部屋にご案内して部屋の中でチェックインしていただく。

あとはパブリックスペースの換気は小まめに行っていますし、客室は換気性に優れた設計の施設になっていることが多いです。

星野リゾートの3密回避と衛生管理への取り組み


ヨッピー:
安全のためにできることを全部やっていくっていうスタンスなんですね。3密回避に繋がる、魅力のあるコンテンツについてもアイデアがあるのですか。
星野:
アクティビティなんかは室内で集まるものより、朝のバードウォッチングのように森の中を歩くというのはリスクレベルとしてはだいぶ違うのではないかと考えています。
和田:
そうですね、ある程度距離を空けていただいて歩くのはいいですね。それは皆さんも安心して行かれると思います。やはり旅に非日常を求める私たちの感覚は変わらないわけですから。皆、行動規制によるフラストレーションはあるので、安全な旅を提案していただくのはすごくよいことだと思います。
星野:
旅行者が感じるリスクレベルが安心安全になる方向を模索していきます。3密のように、これが危険だという基準が大枠ではあるけれども、もっと細かく設定していかなければいけない。
和田:
そうですね。おっしゃるとおりです。たとえば、医療体制にしても、地元の医療機関との対話が必要かもしれません。おそらく今まででも、お客さんで体調が悪くなられた方はいらっしゃったと思うのです。
星野:
はい、いらっしゃいました。
和田:
地元の医療機関とのやりとりで、もし判断などが難しいケースが生じたら都市の医療機関に搬送できるのかというようなことも、話しておく必要があります。
星野:
体制を整えるということですね。確かにそういうことを考えると日本の観光地では緊急体制を取りやすい場所と取りにくい場所とが出てくるかもしれないので、整えることは重要です。

地元の魅力を再発見する、「withコロナ時代」に適した
旅のスタイル「マイクロツーリズム」とは?

ヨッピー:
僕は観光施設を取材している立場ですが、もうちょっと地元の方たちと施設が密着したほうがいいのかなと思うことがあります。

今は海外からのお客さんも来ないし、他府県からも来ないし、となったとき、地元の方たちが気分転換に「あそこの宿に泊まってみようか」となる、そういう関係性が築けていると、今後の生き残り戦略としてはいいのかなと思ったりします。
星野:
そうですね。地元のお客様にお越しいただくことは大事だと思います。

今まで観光市場には大きく分けて3つのセグメントがあったんです。1つはインバウンドの旅行者。もう1つは首都圏や関西圏から来られる方。そして最後が、施設の近隣、公共交通機関などで30分~60分圏内の地元の方々です。私はこの地域の方々が、近隣で旅行をして地元の魅力を再発見する「マイクロツーリズム」がこれから重要になると今、提唱しているんです。
ヨッピー:
なるほど。マイクロツーリズム。僕もそういう、外から来るお客さんだけじゃなくて地域内にもっと向き合っていくほうがいいんじゃないかと思っていました。
星野:
たとえば長野県などは、もともと季節によってはマイクロツーリズムが多かったのです。軽井沢の旅館に東京からお客様が来られるのは夏だけ。夏以外の季節は、ほとんどが地元のお客様でした。

地方の山間の温泉旅館で、食事に刺身が出てくるところって多かったじゃないですか。その理由も、ここにあります。「長野の温泉旅館に来て、なんで刺身を出してるんだ」などと東京の方は怒ったりしますが、地元のお客様から普段は食べられないもの食べたいというニーズがあったのですよ。だからわざわざ海のものを出すと地元の方たちは喜んでいらした。それも歴史的な温泉旅館の役割だったのです。
 
ヨッピー:
あー、たしかに。長野県の方に野沢菜を出しても喜ばれないですよね。
星野:
うちのばあちゃんが作ったほうがうまいなんていわれちゃうよね(笑)。
ヨッピー:
そうですね(笑)

地元のお客様の目線で魅力的な旅はどのようなものか、話しあう二人

星野:
つまりマイクロツーリズム市場を推進していくときは、旅のコンテンツも変わってくるということだと思うんです。今までは地産地消でその地域の魅力を他県の方に感じてもらうのが主流になりつつあったのですが、これからは地元の方々にも魅力の再発見になると思います。

他にも例えば今は新型コロナウイルスの影響で、毎日、献立を考えて、お家で自炊をして、と家事で大変な思いをしている方が増えているかもしれない。そういう方々にとって、温泉旅館でゆっくりして、上げ膳据え膳で保養いただくのは大きな魅力になりえます。

奥入瀬渓流ホテル」では渓流沿いのテラスで朝食をゆったりと楽しめる「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」では渓流沿いのテラスで朝食をゆったりと楽しめる ※写真はイメージです

ヨッピー:
なるほど。星野リゾートのように、お客様でありファンである方たちが地元にもたくさんいるところはいろいろできそうですね。
星野:
はい。マイクロツーリズムは今の状況にとてもマッチした旅行のスタイルだと思っています。

自家用車での移動が多くなりますから、例えば星野リゾートでご提供している3密回避滞在と合わせれば、家族や同行者以外の方との接触をほとんど避けて旅行ができます。また地域内移動になるのでコロナウイルス拡散にもつながりにくいですよね。「withコロナ時代」の旅のスタイルとして、一つ確立していきたいと思います。