番外編

公衆衛生学教授 和田耕治 × SPOT編集長・フリーライター ヨッピー × 星野リゾート 星野佳路

Withコロナ時代、
これが新しい旅の様式

和田耕治

2000年産業医科大学医学部卒業。2006年McGill大学産業保健修士、ポストドクトラルフェロー。2007年医学博士取得。2018年から国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授・医学系大学院教授。2020年5月現在、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門感染会議、厚生労働省のクラスター対策班に参画。

ヨッピー

大阪府出身。商社勤務を経てフリーライターに。WEBメディアを中心に活動し、大手クライアントの広告案件も多数手がける。お出かけメディア「SPOT」編集長。 SPOT 公式サイト

Vol.1 観光産業から見た
新型コロナウイルスからの出口戦略とは?

星野

和田さん、ヨッピーさん、今日はお時間いただきありがとうございます。楽しみに参りました。全員が初対面なので、まずお二人に軽く自己紹介いただいて。そうですね、今日はヨッピーさんに話をリードしていただこうかな。

ヨッピー

わかりました。僭越ながらよろしくお願いします!ではまずは和田先生、自己紹介をお願いします。

和田

国際医療福祉大学大学院で公衆衛生学の教授をしております、和田耕治です。

私は旅行が大好きで、星野リゾートのリゾナーレなどは何度もいったことがあります。今日は新型コロナウイルスの感染対策に知恵を絞りながら、好きな旅行を続けられるためにはどうしたらいいのか、皆さんと考えたいと思っています。

ヨッピー

ありがとうございます。僕はヨッピーと申します。「お出かけ体験型メディア SPOT」という、ライターが現地に行って、その場所の魅力を記事にするメディアを運営しています。ただ、今は新型コロナウイルスの影響で、現地に取材に行くこともできなくて。おでかけ記事は休止して、家の中で楽しむ方法やお取り寄せ情報など、できる範囲内でメディア運営を続けております。
星野リゾートには、この新型コロナウイルスの前と後で、どんな影響が出ていますか?

星野

緊急事態宣言の前までは、大きな影響はなく、お客様にお越しいただくことができていたんです。ところが4月の緊急事態宣言が出た途端に「旅行しないでください」というメッセージが広まり始め、また受け入れる側の自治体も医療体制の破綻を考えて、旅行者をウェルカムしなくなりました。

ここからの落ち込みが激しかったですね。旅行者も90%以上減ったと思います。それが5月も続いています。

ヨッピー

9割減!めちゃめちゃ厳しい状況ですね。和田先生の近況はいかがでしょうか? 大変忙しくされていると思うんですが……。

和田

私は今、政府の専門家会議も出させていただいているので、対策を日々考えています。

感染リスクが高いウイルスと観光産業、
折り合いは見つけられるのか?

ヨッピー

なるほど。和田先生、まずこのウイルスの特徴を教えていただけますか。

和田

はい。まず、このウイルスが今までのインフルエンザと違って厄介な点は、みんなが免疫を持っていないということなんです。感染者がいた場合、周りの人たちまで比較的簡単に広がってしまいます。

またワクチンも通常はできるまで最低でも1年半程度かかりますし、それも確実ではない。つまり約8割の人が抗体を持つ状態になるまで、中長期に感染流行の波が続く可能性が高いのです。

ヨッピー

そうすると、大多数が抗体を持つまで観光産業を含め、社会の経済や活動も元通りにならないなんてこともありえるのでしょうか。

和田

すぐに元通りは難しいかもしれません。ですが、対策として感染リスクが高い場所を自粛いただいたり、ある程度の個人情報を提供いただき感染のリスクが高い場合にはアラートを出したりすることで感染拡大の対策ができることがわかっています。そうした対策をすることで世の中の8割程度の経済を回せることが徐々にわかってきました。実際に中国、韓国、台湾あたりで、そういうことができつつあります。

ヨッピー

そういった、いわゆる第一波後の地域の観光産業の現状どうなっているんでしょうね。

星野

台湾でいえば、台中の温泉地で運営しているリゾート「星のやグーグァン」は好調ですよ。台湾は感染防止策を打つことで、たしか2週間ほど連続で感染者がゼロになった期間がありまして。そして何が起こったかというと、もともと台湾の方たちは海外旅行志向だったのが、外国にいけないので、島内での旅行が劇的に増加しているんです。

台北から車で2時間半の渓谷に建つ「星のやグーグァン」

台北から車で2時間半の渓谷に建つ「星のやグーグァン」

ヨッピー

へえ~! なるほど。なるほど。確かに、日本でも海外旅行好きだった人が「海外行けないから国内で遊ぶか」って回帰する流れはあるでしょうね。

和田

台湾ではすでにそうした動きがあるのですね。とはいえ、このウイルスはなかなかしたたかで、ちょっと対策を緩めるだけで感染者が増える恐れがあります。今回の東京のように感染者が増えてきますと、すぐに病床がいっぱいになり、交通事故やガンなどの方でこれまでは助けられたはずの命が助けられなくなる医療崩壊がおこります。

対策がうまくいった国の事例を参考にして、可能な限り感染のリスクを抑えながら、経済を回していく出口戦略をどのように持つか。今、そこが課題ですね。

中長期化する新型コロナウイルス流行の出口は
生活様式の新しいスタンダードにある

ヨッピー

感染の抑制と社会の経済活動を両立する出口戦略が必要とされているということですね。今のところ、戦略はあるのでしょうか。

和田

一応、方向性として2つの軸があると私は考えています。1つは社会的な要請のあるところから開けていくこと。もう1つは感染リスクの低いところから徐々に開けていくことです。

ここが観光産業にも関わってくるところかと思いますが、集まって食事をしたりお酒を飲んだりする場所はどうしても感染拡大のリスクが高いんですね。人が集まる締め切った空間で複数の人がいる状況は避けていかなければなりません。

星野

先生のおっしゃるとおり、感染リスクは抑えて、安心してもらえるサービスを宿泊施設は提供しなければなりませんね。あとから詳しくお話しできればと思いますが、星野リゾートでは3密を徹底的に回避する滞在を今、ご用意しています。

和田

良いですね。人のマインドとしてずっと家にいろといわれても、なかなか気持ちが沈みますので。感染対策をしながらの宿泊施設の運営をぜひ実践していただきたいです。

また旅行をする方は、家族など普段一緒に暮らしている人とプライベートな空間を保ちながら、住んでいる都道府県の中での旅行をするというのは今後の比較的とりやすい選択肢です。

今後の観光産業のありかたについて、次々と和田先生に質問をしていく星野

今後の観光産業のありかたについて、次々と和田先生に質問をしていく星野

星野

そうですね。ここまでの先生のお話しを聞いていて、基本的にこのウイルスは中長期的に無くすことが難しい、と。その場合、社会のあるべきゴールはどのような姿になるんですかね。

和田

結論から言うと、「感染リスクを下げる新しい生活様式を定着させる」ことが手段のひとつです。それにより、感染を最小限にしながら、日常をできるだけおくることがゴールです。新しい生活様式においては次の3つが基本になりあります。

1つ目は人との距離を2メートル、最低でも1メートル空けること。 2つ目は手洗いの習慣化ですね。これは重要なのですが、手を洗うタイミングがけっこう難しくて、おろそかになっていることが多いです。例えば一般の皆さんは、電車に乗って、降りてすぐ手を洗わない人が多い。移動のたびに、すぐ手を洗うことが大事です。

最後3つ目は、マスクの着用です。これに関してはいろんな議論がありましたが、自分の飛沫を飛ばさないためにマスクは必要です。自分好みのおしゃれなマスクを選ぶのもよいのではないでしょうか。

星野

感染リスクをなるべく回避する生活をしながら、じわじわ免疫を持った人の比率を増やしていくということですね。

和田

はい。ですので、旅行も今あるスタイルを新しい様式にどう変えていくか。どうしたら感染リスクを下げられるのかということは、ぜひとも観光産業の皆さまに考えて実践していただきたいと思っています。

Vol.2 「三密回避」と「マイクロツーリズム」
これが旅のキーワード

星野

和田先生のお話だと、中長期で考える必要がある中で、我々の生活は新しいスタンダードに移行すると。この間、どういう旅がありえるんだろうと考えなくてはいけないですね。

ヨッピー

そうですね。元に戻る、というよりは、コロナ前、コロナ後で、そもそも社会の仕組みが変わるんじゃないかという話もあります。たとえば出張の需要はコロナ後でも元には戻らないんじゃないか、とか。全国各地の人と、今日みたいにテレビ電話で打ち合わせすればそれでいいよね、って多くの人が気付いちゃった。など。

でも、これは個人的な意見ですが、観光という遊びの部分に関しては、これからも残るんじゃないかと思ってます。そもそも僕が観光メディアをやり始めたのは、自分自身が旅行好きであるのはもちろんなのですが、どんどん世の中がグローバル化するなかで、生活が便利になって余裕ができると、旅行の需要は伸び続けるだろうと思ったからなんです。スマホ1台で仕事をしながら世界中を旅している、というようなライフスタイルに憧れる人は多いんですが、それこそ「旅」の需要の強さの表れだろうと思って。

だから長期的には旅行の需要そのものがなくなるという心配はしていないんですが、この苦しい時期をどう乗り越えるかですね。
星野さんの頭の中にはもう何か打つ手があるのでしょうか。

旅の本来の需要が戻るまで、苦しい時期をどう乗り越えるか。星野のアイデアとは

旅の本来の需要が戻るまで、苦しい時期をどう乗り越えるか。星野のアイデアとは

星野

まず旅行のスタイルを変えていかなければならない。旅行者が安全に感じてくれなければ戻ってきてくれないので。「こういう形態が安全なのだ」と打ち出していこうと思います。
具体的にいろいろ出てきてはいますが、まず今のところは密閉空間、密集場所、密接場面という3密回避を徹底した滞在を準備しています。ヨッピーさん、それをぜひ取材に来てください。

ヨッピー

はい、ぜひ(笑)でも、これまでは3密って高いホスピタリティに結びつくものでしたよね。屋内の空間で、スタッフがお客様のすぐ近くでよりそいながら心地よい接客をするっていうのが良しとされていた。

星野

そうですね。ただ今は新型コロナウイルスのことをお客様もご存知なので、3密を回避したサービスを受け入れていただけます。
例えば星野リゾートではもうビュッフェをやめました。厨房からお部屋にお届けしてお部屋でも食べていただけるし、レストランでは間隔をすごく空けた場所を作り、そこで食べていただくような工夫を行っています。
また、これまで温泉旅館の場合は、チェックインの際、お客様に景色のいい場所に座っていただき、お茶を出していたんですよ。でもこれからは、それだと他のお客様とのコンタクトが出るので、すぐお部屋にご案内して部屋の中でチェックインしていただく。

あとはパブリックスペースの換気は小まめに行っていますし、客室は換気性に優れた設計の施設になっていることが多いです。

ヨッピー

安全のためにできることを全部やっていくっていうスタンスなんですね。3密回避に繋がる、魅力のあるコンテンツについてもアイデアがあるのですか。

星野

アクティビティなんかは室内で集まるものより、朝のバードウォッチングのように森の中を歩くというのはリスクレベルとしてはだいぶ違うのではないかと考えています。

和田

そうですね、ある程度距離を空けていただいて歩くのはいいですね。それは皆さんも安心して行かれると思います。やはり旅に非日常を求める私たちの感覚は変わらないわけですから。皆、行動規制によるフラストレーションはあるので、安全な旅を提案していただくのはすごくよいことだと思います。

星野

旅行者が感じるリスクレベルが安心安全になる方向を模索していきます。3密のように、これが危険だという基準が大枠ではあるけれども、もっと細かく設定していかなければいけない。

和田

そうですね。おっしゃるとおりです。たとえば、医療体制にしても、地元の医療機関との対話が必要かもしれません。おそらく今まででも、お客さんで体調が悪くなられた方はいらっしゃったと思うのです。

星野

はい、いらっしゃいました。

和田

地元の医療機関とのやりとりで、もし判断などが難しいケースが生じたら都市の医療機関に搬送できるのかというようなことも、話しておく必要があります。

星野

体制を整えるということですね。確かにそういうことを考えると日本の観光地では緊急体制を取りやすい場所と取りにくい場所とが出てくるかもしれないので、整えることは重要です。

地元の魅力を再発見する、「withコロナ時代」に適した
旅のスタイル「マイクロツーリズム」とは?

ヨッピー

僕は観光施設を取材している立場ですが、もうちょっと地元の方たちと施設が密着したほうがいいのかなと思うことがあります。

今は海外からのお客さんも来ないし、他府県からも来ないし、となったとき、地元の方たちが気分転換に「あそこの宿に泊まってみようか」となる、そういう関係性が築けていると、今後の生き残り戦略としてはいいのかなと思ったりします。

星野

そうですね。地元のお客様にお越しいただくことは大事だと思います。

今まで観光市場には大きく分けて3つのセグメントがあったんです。1つはインバウンドの旅行者。もう1つは首都圏や関西圏から来られる方。そして最後が、施設の近隣、公共交通機関などで30分~60分圏内の地元の方々です。私はこの地域の方々が、近隣で旅行をして地元の魅力を再発見する「マイクロツーリズム」がこれから重要になると今、提唱しているんです。

ヨッピー

なるほど。マイクロツーリズム。僕もそういう、外から来るお客さんだけじゃなくて地域内にもっと向き合っていくほうがいいんじゃないかと思っていました。

星野

たとえば長野県などは、もともと季節によってはマイクロツーリズムが多かったのです。軽井沢の旅館に東京からお客様が来られるのは夏だけ。夏以外の季節は、ほとんどが地元のお客様でした。

地方の山間の温泉旅館で、食事に刺身が出てくるところって多かったじゃないですか。その理由も、ここにあります。「長野の温泉旅館に来て、なんで刺身を出してるんだ」などと東京の方は怒ったりしますが、地元のお客様から普段は食べられないもの食べたいというニーズがあったのですよ。だからわざわざ海のものを出すと地元の方たちは喜んでいらした。それも歴史的な温泉旅館の役割だったのです。

ヨッピー

あー、たしかに。長野県の方に野沢菜を出しても喜ばれないですよね。

星野

うちのばあちゃんが作ったほうがうまいなんていわれちゃうよね(笑)。

ヨッピー

そうですね(笑)

地元のお客様の目線で魅力的な旅はどのようなものか、話しあう二人

地元のお客様の目線で魅力的な旅はどのようなものか、話しあう二人

星野

つまりマイクロツーリズム市場を推進していくときは、旅のコンテンツも変わってくるということだと思うんです。今までは地産地消でその地域の魅力を他県の方に感じてもらうのが主流になりつつあったのですが、これからは地元の方々にも魅力の再発見になると思います。

他にも例えば今は新型コロナウイルスの影響で、毎日、献立を考えて、お家で自炊をして、と家事で大変な思いをしている方が増えているかもしれない。そういう方々にとって、温泉旅館でゆっくりして、上げ膳据え膳で保養いただくのは大きな魅力になりえます。

「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」では渓流沿いのテラスで朝食をゆったりと楽しめる ※写真はイメージです

「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」では渓流沿いのテラスで朝食をゆったりと楽しめる ※写真はイメージです

ヨッピー

なるほど。星野リゾートのように、お客様でありファンである方たちが地元にもたくさんいるところはいろいろできそうですね。

星野

はい。マイクロツーリズムは今の状況にとてもマッチした旅行のスタイルだと思っています。

自家用車での移動が多くなりますから、例えば星野リゾートでご提供している3密回避滞在と合わせれば、家族や同行者以外の方との接触をほとんど避けて旅行ができます。また地域内移動になるのでコロナウイルス拡散にもつながりにくいですよね。「withコロナ時代」の旅のスタイルとして、一つ確立していきたいと思います。

Vol.3 旅でリラックス
ストレスからの開放で免疫力を高める

ヨッピー

僕がこの機会に、観光業にたずさわる方々に提案したかったのは、業界のITリテラシー向上の呼びかけです。

新型コロナウイルスの時代に、観光業が生き残りのために対策でどういう手が打てるの、となった時に、「宿泊施設で出している料理やお土産をECサイトで売ろう」とか、「クラウドファンディングで寄付を集めよう」とか「未来の宿泊券を販売しよう」とか「新しいプランを作ってSNSで宣伝しよう」とか、全部ITが絡んできますよね。それ以外にも、たとえば現場のオペレーションの部分でチェックインを3密対策で無人化するにしても、ITの理解が必要になる。

このIT技術を上手く使いこなせるどうかで、新型コロナウイルスに対する対応力が高いか低いかにつながってくると思うのです。なので、そのあたりは誰かが音頭をとって業界全体を引き上げてくれるといいなと思っています。古い旅館なんかだとその辺が全くわからない方々もまだまだ多いはずなので、最前線でバリバリやってるITエンジニアの人たちがこういう業界にも参入して来ればいいなと思ってます。

星野

現場でのIT活用という話でいえば、僕らが今までずっと懸念していたのは、高級なサービスとしてどうなのか、ということでした。そこが一気に今回の件で変わっていくかもしれません。

ヨッピー

なるほど。

観光産業でIT活用がより進んだとき、どんなサービスがありえるのか

観光産業でIT活用がより進んだとき、どんなサービスがありえるのか

星野

さきほど出張をテレビ電話で代用できちゃうという話をヨッピーさんがしてくださりました。それは前からみんなわかっていたのだけれど、意外に進まなかった理由は「失礼じゃないか」という感覚があったからだと思うのです。大事な話をするのに、お伺いしないなんて失礼じゃないか、という感覚です。

宿泊施設でいえば、チェックインはお出迎えしてお辞儀して、担当がお部屋までご案内しないといいサービスじゃないという概念が我々にはあったのです。ところが今回、新型コロナウイルスの影響で変わるかもしれないですよ。今まで失礼と思われていた無人サービスが、これからは安全でよいサービスということに転換されるなど。

ヨッピー

そうですね。無人チェックインなら安心安全です、ということになりそうですね。

星野

部屋の鍵なんかも、スマホで開くとかね。技術としては前からあったのだけれど、日本の温泉旅館としてはそっけないじゃないかというのがあった。

ヨッピー

はい。

星野

そのあたりは一気に変わる可能性はありますし、星野リゾートでも検討していきたいですね。

温泉は「密具合の見える化」で、
安心して入浴できるように

和田

あと旅館で言えば「温泉をどうするか」って、対策が難しいのです。

星野

液体のなかでウイルスは生き続けられるものなのですか。

和田

エビデンスはありませんが、感染対策の基本は希釈することです。水で薄めてしまえば、基本的に感染力は減少するので。温泉も水の量が多いから希釈するじゃないかという話もあります。

星野

星野リゾートでは、温泉の液体から感染するというより、温泉が混み合っているという状態が嫌われるだろうと思っています。それで6月から、大浴場にどれくらいの人がいるかというのをわかる仕組みを導入します。お部屋から大浴場にいくまでに、スマホで混雑状態をチェックできるのです。そして、空いてる時間を選んでもらう。現在の状況だけでなく、毎日の混み合っている時間も表示するようにして、分散して入っていただく。「今、何人いるだろう」と見てもらって入ってもらう。これは入り口のところにセンサーをつけるだけでできるシステムです。

温泉旅館「星野リゾート 界 箱根」の壁一面が抜けた半露天の大浴場

温泉旅館「星野リゾート 界 箱根」の壁一面が抜けた半露天の大浴場

ヨッピー

そういう仕組みって、自社で開発していらっしゃるのですか。

星野

ええ。情報システムを担う部署があり、そこのプロジェクトの一部として開発しています。

ヨッピー

僕は銭湯が大好きでよく行くのですが、確かにそういうのがあればいいなあと思いました。銭湯も「密を避けてください」という張り紙がぺたぺたしてあって、銭湯によっては何曜日のこの時間帯が多いので避けてねとか書いてあったりするらしいのですが、それがリアルタイムでわかるといいですね。

星野

「密具合の見える化」という、お客様への情報提供は積極的にしていこうと思っています。

ストレスが多い「withコロナ時代」だからこそ
安心安全な旅が必要とされる

星野

和田先生にお伺いしたかったことが一つあります。免疫力ってそもそもどういうものなのでしょうか。

和田

エビデンスとしては余りないので、何を食べたら、どうしたら、免疫力が上がるという確かなものはありません。ただ個々で体力をつけておくということは、対策が少ない中でもかなりいい面はあります。基本的に睡眠をよくとっていただいて、体調悪くしたときにも打ち勝てる体力を保っておいていただく。

対策が難しいなかでも良い面がある、免疫力向上と旅の関係性とは

対策が難しいなかでも良い面がある、免疫力向上と旅の関係性とは

星野

なるほど。では睡眠とか運動とかは重要になりえますね。ストレスというのは免疫に悪影響ですか。

和田

それはよくないです。ストレスはあらゆる病気の原因になり、ガンのリスクも高めるといわれています。

星野

なるほど。旅にできることはそこにあると思うんですよ。ヨッピーさん。

ヨッピー

はい!

星野

旅というのはおいしいもの食べて、ゆっくり休んで、ストレスを解消していただくことができる。温泉旅館でいえば、温泉保養という言葉もあったくらいですから。免疫力にとってプラスだと思います。

ゆっくりしていただく旅というのが、これから新型コロナウイルス対策に貢献できる旅なのかもしれない

和田

ありえると思います。移動中の対人接触も、家族で車などで移動される分には普段から一緒にいる人たちですから問題ない。また体調が悪い方は、無理してお越しいただかないというやり方はあります。

前向きに考えて、良好事例を作っていっていただければと思います。

ヨッピー

前例はないけれど、やっていくしかないですね。

星野

皆さまに安心してお越しいただける滞在の準備を着々と進めています。今回お伺いしたことも参考にしながら、新しい旅の様式を作り上げていきたいと思います。お二人には、いろいろと実践している過程でまたぜひお話を伺わせてください。今回はありがとうございました。

構成: 森 綾 鼎談日:2020年5月7日

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