Vol.3インターネット発信で広がる
銭湯とペンキ絵の可能性

星野:
田中さんが銭湯絵で、何かこれまでと変えたことはありますか。
田中:
インターネット発信ですね。ブログで作品をアップしていたり、今まで描いた案件を紹介しているんです。
星野:
情報発信を始めたんですね。
田中:
銭湯はながらくネットとは無縁だったので。
星野:
それをわざわざ見に銭湯に行く人も出てくるんだろうね。
田中:
あと、「この銭湯の外の様子は見られるけれど、中はどうなっているんだろう」というのもわかりますよね。ペンキ絵だけのことだけでなく、銭湯自体のこともご紹介しています。最近は住所や営業時間についての情報は英語でも書いているんです。

インターネット発信で広がる銭湯とペンキ絵の可能性

星野:
国内からも海外からも「こことここを見て帰ろう」みたいな人がいそうですね。美術館に近いですね。
田中:
外観の写真を撮ったり、脱衣場など細かくスケッチをしていく人もいるようです。
星野:
なるほど。田中さんがこれから描いてみたい絵はありますか?
田中:
根本的にみなさんがイメージするペンキ絵を描きたいです。それをやりつつ、変わった要望も受ける、と。定型があるから、変えたときに変化が楽しめると思うので。
星野:
基本的な定型ってなんですか。
田中:
青空、富士山、水辺の風景。本で読んだのですが、昔はハワイの風景が描かれていたこともあったようです。今は企業広告の案件などだと、ネットで画像配信したいので、ペンキ絵そのもの中に広告商品が入ってきたりすることもあります。ネットが出てきたことで、ペンキ画の描かれ方、あり方にも変化が出てきましたね。地域起こしで、シャッターに銭湯ペンキ画を描いてくれとか。銭湯の壁画だけではなく、デイケアセンターのお風呂場とか、飲食店の壁など、いろんな話をいただいています。先日も自由が丘のバー でライブペインティングをやりました。夜景の富士にしてほしいというオーダーがありまして。月明かりを浴びた黄色の富士山にして、反対側には東京タワーとスカイツリーを描きました。
星野:
このペンキ絵というのは、アートの世界のなかでは特殊なものなんですか。
田中:
ペンキで絵を描くというのはあまりなかったことなので。画材が独特なものですね。また、描き手のコンセプトははずしていって、銭湯のご主人のご要望に合わせたり。絵の意味を省いてお客さんが親しみをもてる風景を描く。それは今の美術の流れとは違います。
星野:
発注する側の望むものを描く、ということですね。
田中:
はい。昔はペンキ絵というのは、絵の下に掲示される広告の費用で制作されていたので、広告主も意識する流れがあったと思います。私が卒業論文を書くきっかけになった福田美蘭さんの作品は、その歴史を知った上でペンキ絵内に現代のいろんな企業のロゴを隠していれるというものでした。
星野:
へえ。面白いですね。
田中:
島の木の緑のなかに、こっそり入っていたりとか。
星野:
島の建物の看板に「星野リゾート」と描いてあったり(笑)。
田中:
はい。ちなみに、この第二寿湯は「お湯の富士」というえどがわ銭湯応援キャラクターが入っています。
星野:
なるほど~。広告とお客様の楽しみが一体化してるということですね。文化として楽しめる空間にするって大切だと思いますね。
田中:
世代を超えて楽しめる場所っていうのもいいと思うんです。旅先でも、近くでいいお店ありますか」って銭湯の店主さんに聞いていたら、隣から銭湯に来てた知らないおばあちゃんが「ここがいいよ」と教えてくれたりします(笑)。
星野:
地域の観光案内所にもなってるんですね(笑)。

大きな湯船と気持ちよい風景絵の下裸で人々が交流する場、銭湯。日本の独特の文化を守りながら進化していくだろう大きな湯船と気持ちよい風景絵の下裸で人々が交流する場、銭湯。日本の独特の文化を守りながら進化していくだろう

星野:
僕の今日の最大の学びは銭湯画は「1日で描いている」ということです。発想が変わっていっちゃう。すごいインパクトですよね。メンテナンスもあるけど、日本文化って季節感が大事でしょう。温泉旅館でも料理とかしつらいを毎月変えているんですよ。だから、毎月変わるといいなぁと。月めくりカレンダーのように。やろうと思えばできちゃうんですよね。生花飾るより、個性的でステキですよね。色々できることが増えてきた気がします。ありがとうございました。

構成: 森 綾
撮影: 萩庭桂太