Vol.2「民泊は、ホテルから
顧客を奪う物ではない」
「いやいや、奪っていいんですよ」

星野:
ここからは世の中的、一般的なAirbnbのイメージというのも含めてお伺いしたいんですけど。
 旅のヘビーユーザーは、今まではホテルに泊まっていたと思うんですね。世界中で。アメリカなんかそうだと思うのですが、ヘビーユーザーがAirbnbのようないわゆる“ショートタームレンタル”に移行しているのは、なぜなんでしょう。ホテルの何がダメだったのでしょうか。
田邉:
我々はそういうデータは持ち合わせていないので、正確なことは言いづらいですが。感覚的にいいますと、別に移行しているわけではないと思います。
星野:
そうですか。ほんとうに?
田邉:
もうひとつ選択肢が追加されたというイメージですね。基本的には毎回“ショートタームレンタル”を使っているわけではなくて、使い分けているような気がします。お寺の宿坊を楽しむ時もあれば、旅館に泊まる時も、ホテルに泊まる時もある。

体験を楽しむ宿泊。今回のホスト宅にはアートやデザインを始めとした本が並ぶ本棚が吹き抜け天井まである。普通のホテルではなかなか体験できない空間と文化度の高いホストが魅力的なお宅体験を楽しむ宿泊。今回のホスト宅にはアートやデザインを始めとした本が並ぶ本棚が吹き抜け天井まである。普通のホテルではなかなか体験できない空間と文化度の高いホストが魅力的なお宅

ホストのお宅のダイニングには今までのゲストの出身地がマッピングされた世界地図がある。ホストのお宅のダイニングには今までのゲストの出身地がマッピングされた世界地図がある。

星野:
それはAirbnbの日本代表としての正式コメントですね(笑)。
田邉:
いや、そういうわけではなくて、本心で。
星野:
うーん。
私はやっぱり、ホテルからある程度の顧客を奪うものだとは思いますよ。たとえば航空業界を例に挙げると、日本にも2012年に国内LCCが誕生したじゃないですか。あれは価格を理由に利用しなかった顧客を相当数、飛行機ユーザーにしたんですよ。大手エアクラフトの顧客を全部は奪わなかったが、LCC利用者の半分は初めて飛行機を使う人たちで、半分は大手が心配したとおり、大手航空会社からスイッチしているのです。そういう意味で、航空業界全体には貢献していると思うんです。
“ショートタームレンタル”も、ある程度ホテルや旅館から顧客を奪うと思うし、だからこそ、旅館やホテルは変革すると思うのです。取られないようにがんばろう、と。

 お客様はどのあたりが、ホテルや旅館より民泊がいいと思うんでしょう?
田邉:
いえ、先ほどの私の話は表向きの話だけではないですよ。なぜなら都会での旅行で夜遊びしたりしたければ、ホームシェアリングでホスト宅に深夜12時に帰るのは申し訳ないなあという気持ちもあるでしょうし。たとえば、出張のときにフレキシビリティがないときはホテルを選ぶでしょう。
星野:
でも選択肢としてね、ホテルしかなかったときはホテルに泊まったわけですから。民泊という新しい選択肢が出てきたとき、ある条件のときはそっちへ宿泊しようということになる。これは何かホテルや旅館が顧客を満足させていないものがあるんだろうと思うんですね。それが、民泊が支持される理由なのだろうと。それは我々サイド、既存宿泊施設が考えなきゃいけないことなのですが。
田邉:
宿泊ビジネスだけではないかもしれないんですけど、CtoCの特徴として、*ロングテールであるということです。マス向けを満たす宿泊ビジネスと、ロングテールはまったく違うものだと思います。Airbnbのホストは1軒1軒違います。やっぱり一人ひとりが思う宿泊先やサービスを思い描いて、それを満たすものを探す、そして見つかれば、ひとつずつが成立する。どちらかというと、マス向けではないものを提供しているだけで、穴を埋めているような感じ。食い合うことはないと思います。
星野:
食い合わないというのは公式見解だと思いますけど(笑)。私が業界の方々に伝えているのは、民泊は市場を食い合うことになります。だから既存サービスの切磋琢磨につながっていくんですと。これを否定してはいけないと思っているんですよね。
田邉:
そうですね。ただ、旅のスタイルから言うと、単に宿泊したい人たちと宿泊を通して文化体験したい人たちに分かれているのではないかと思うんですよ。
星野:
文化体験しつつ宿泊したい人は地域の個性取り込んだ宿泊先に泊まりたいですよね。それはとてもわかります。温泉旅館などは、そちらに近いと思います。
京都ではハイアットリージェンシーに3泊泊まって京都観光した外国人観光客が「星のや京都」に最後の2泊は移動するんですよ。ということは、「星のや京都」の泊まることをディープな日本文化体験と捉えているんですよね。それに似た感じですかね。

「星のや京都」の文化体験アクティビティの中の一つ「朝のお勤め」。旅行者では体験の手配するのが難しい本物の体験を提供している。「星のや京都」の文化体験アクティビティの中の一つ「朝のお勤め」。旅行者では体験の手配するのが難しい本物の体験を提供している。

田邉:
はい。なぜそこは強く言えるかと言いますと、私も星野リゾートのヘビーユーザーでして。先日も北海道の「星野リゾート トマム」に行ってきたばかりですなんです。これはケースバイケースだと思うんですよ。やはり体験、シチュエーション、一人なのか? 家族と一緒なのか? ビジネストリップ?なのかということだと思うんです。
星野:
旅行者が条件で使い分けるというのはよくわかるんですけども。民泊は、消費者から支持されているということは否定しちゃいけないと思います。公正な競争こそが宿泊業界全体が顧客志向になり、日本の観光業界の課題を修正していく原動力になっていくと思うのです。競争は否定しないほうがいいですよ。
田邉:
相乗効果だと思います。今後、インバウンドもさらに増えていくし、国内旅行市場も増えることで、旅行市場自体も大きくなっているという珍しい状況です。

日本だけというよりはアジア地域全体がボーダレスになってきていますし、どうやって相乗効果を生んで、日本大好きな人を増やすかだろうと。アジア地域へのトラベルの頻度は増えますので、ホームシェアリングでも相乗効果を生んで、旅館やホテルの良さも引き立っていくと思いますよ。
*ロングテール
インターネットを用いた物品販売の手法、または概念の1つであり、販売機会の少ない商品でもアイテム数を幅広く取り揃えること、または対象となる顧客の総数を増やすことで、総体としての売上げを大きくする手法。

世界の都市に民泊ルールはあります。
空き家がとても多い
日本ならではのルールができつつある

星野:
もうひとつお聞きしたかったのは、ホテル業界の反対とか、民泊規制の動きはアメリカではどうなっているのでしょうか? ニューヨークのホテル業界が猛反対していたりするのですか?
田邉:
ホテルもそうなんですが、やっぱり地域によって、旅行者のニーズが違いますし、街としてショートタームレンタルとの共存の方法は違っていますね。日本はユニークな地域でして、都会でも空き家がいっぱいあるとか、単純な食い合いにならない。ニューヨークなどは、不動産物件数が足りなくて、民泊に使用すると単純に家を借りたい人が借りられなくなる、というケースが出てきたりします。その場合、ニューヨーク市と組んで、どうしたらいいかを一緒に考えます。日本は日本でベストな形があると思うんです。

世界各地で不動産市場と社会事情は違い、それによって必要なルールも違う。日本でも日本の社会と市場にあったルールは必要だし、出来上がっていくと、田邉さん。世界各地で不動産市場と社会事情は違い、それによって必要なルールも違う。日本でも日本の社会と市場にあったルールは必要だし、出来上がっていくと、田邉さん。

星野:
同じ国でもニューヨークとサンフランシスコは全然違うわけですね。
田邉:
はい。それぞれの街でサービスは提供させてもらっていますが、都度話し合いながら、解決していっています。ルールはあったほうがいいと認識していますので。それぞれの都市や国の事情に合わせて、協力をさせていただいております。
星野:
どこでも、市や国と協調しながら進んでいる、と。
田邉:
またはその方向にあります。
星野:
これからという都市もあるんですね。
私は*シェアリング・エコノミーというのが、今後の宿泊業界の大変革につながると思っていて、変革につながるということは、進化につながると思っているんです。それが世界中で痛みを伴いながらも進んでいるときに、日本だけが国内事情だけを視点において規制を強化してしまったら、日本の進化だけが遅れる。競争力が落ちて総体的な力が弱くなると思うのです。
 そういう考えのもとに伺いたいのですが、今、日本は世界のなかで、どのくらいの規制を求められているのですか。
田邉:
ルールづくりは今なされているタイミングです。今、日本には民泊供給側は二種類あって、一つは自宅のホームシェア、もう一つは空き家がいっぱいあるので、それを事業として提供している方が出てきています。事業提供については、別のルール作りがなされるべきところだと思っています。今、いい方向にはすすんでいます。
グローバルで伸びている市場のなかで、日本はかなり上位にあります。利用者の数も規模も成長率もかなりトップクラスの市場に成長しつつあります。ゲストの成長率では世界1位です。インバウンド利用も1位。アジアに来られるインバウンドの3人に1人がAirbnbのサービスを利用されています。日本市場はかなり大きな規模になってきているんです。そのなかでルール作りが加速しています。
星野:
遅れても、よいルールができればいいですよね。ルールはなんだか厳しくなりそうという懸念はありますか?
田邉:
簡単でわかりやすく現実的なルール作りが進むことを期待しております。
星野:
海外ではどのようなは制限がかかっているのでしょうか? たとえば、民泊特区の大田区は6泊7日からでないと民泊提供できないようになってますが、ああいうルールは他の国でもあるのですか。
田邉:
やはりそれぞれの都市、国ごとにルール制度が作られています。我々は旅館業法ではない新しいルールを望んでいます。進むと思っています。
星野:
近隣住民への周知というのもあるんでしょうか?
田邉:
はい。日本でも4月の旅館業法の緩和などルール変更があった場合にはホストさんへ周知をしています。ただ、ホームシェアリングは一般の方々が利用されています。ご高齢の方も増えてきていますので、個人にとってわかりやすいルールでなければならないと考えています。
星野:
規制緩和が遅れ、日本の宿泊業の変革のスピードを止める。「変わらなくていいんだ」になるのが一番いけないですね。市場を食い合うのはいいんですよ。「今のホテルのどこがダメなのか」を明確にしてあげないと、競争する力が湧いてこない。旅館業界の方々にも私は「おそれるな」と発言しています。自分たちが変わるということが一番の防御なのであって、外からの新興を規制したところで、自分たちの悪い状況が止まるものではないんですよね。
 全国統一のルールのなかでも旅館業法をどう扱うかには、関わってこざるを得ないですね。当然問題になってきますよね。
田邉:
自宅を貸す場合は旅館業法と別ルールでお願いしたいと提案しています。
星野:
海外の場合、自宅を貸す場合と空き家を貸す場合は違うんですか?
田邉:
例えばフランス・パリの場合は、生活の本拠として使用している住宅(フランスでは年間8か月以上居住している場所と定義)は短期の賃貸を行うことができる。主たる住宅以外の物件については、自治体に任されていますが、許可されている地域においては市当局の「用途変更」認可を得ることが条件となっています。
星野:
要するに2軒目というのは空き家のことなんですね。パリでも、空き家の場合とは違うんですね。
田邉:
パリは、実際に賃貸で借りる人に配慮してのことなんです。ですので、日本の場合はまた違うかもしれない。都心部と郊外でも違ってくるのではないでしょうか。
星野:
Airbnbのお客様の需要としては、オーナーが住んでいる一部屋を泊まりたいというホームスティ型の需要と、オーナーがその家には住んでいない空き家をまるまる借りて泊まりたい需要はどちらが高いんでしょうか?
田邉:
世界的にみて、8割以上のホストさんは、自宅を貸し出しています。貸し出し方としては、自宅を貸すホストさんの中でも、自分が自宅にいないときに自分の家をまるまる貸す、というのが半分よりちょっと多いですね。
星野:
私はその空き家に泊まりたいニーズは、実はもっと大きいと思っているんですよ。
田邉:
我々の方向性としては、宿泊より体験にシフトしていきます。宿泊はあくまで体験の1つとしての位置づけです。今後どんなビジネスにしていくかはまだわかりませんが。ローカルの人となんらかの接点をもうけることは増やしていきたいです。
星野:
それは世界のAirbnbの全体の動きですか。
田邉:
はい。
星野:
そうなんですね。それはなんでなんだろう。顧客のニーズからきてるでしょうか。
田邉:
泊まるというニーズではなくて、少しでも地元と触れ合うということが大事だと思っているんです。
星野:
おそらくニーズはまったく違うんだと思いますね。必ず誰かの家に泊まりたい人と、空き家に泊まりたいんだという人は。ディープな文化を体験したいという人は幅広いサービス提供をウエルカムでしょう。空き家に泊まりたい人は価格コンシャスかもしれない。
田邉:
それは同じ空き家でも、都市部のマンションと飛騨高山の日本家屋ではまた全然違うでしょうね。
星野:
特区と日本全体ではルールは変わっていきそうですか。
田邉:
そうですね。
*シェアリングエコノミー
欧米を中心に拡がりつつある新しい概念で、ソーシャルメディアの発達により可能になったモノ、お金、サービス等の交換・共有により成り立つ経済の仕組み。

対談日:2016年4月18日

構成: 森 綾
撮影: 萩庭桂太