Vol.2環境問題は家族旅行のインドで考えた。
リサイクルで物事を考え、
さらなるリサイクルを作るのが原点。

星野:
自然や環境に関心のある一家だったのですね。
マーカス:
弟と私が学業のため、家を出る前に「将来、一緒になかなか旅もできなくなるかもしれないし、今まで見たことがないものを見せてあげたい」という親の考えで、インドへ家族旅行しました。インドの大都市であるカルカッタ、デリー、マドラスに行きましたが、スイス人の16歳の少年にはかなりのカルチャーショックでした。何が起きているかよくわからず、ただびっくりしました。何週間もインドを旅したのですが、どの都市でもあらゆるゴミを大勢の人々が集め、それをもとに何かを作っていました。その光景が、僕らのアイデアの原点なのかもしれません。だから我々のやっていることはアフリカやインドで作っている物のようなところも少しあり、それを世界で一番コストのかかるスイスでやっているのです。何かを探して、それをもとに何かを作る。その光景を見た経験が5年後にバッグのアイデアの元になったというのがとても重要なポイントです。「リサイクル」で物事を考え、さらにリサイクルするというのが今日までの我々を刺激し続けることなんです。
星野:
私は、使用済みの素材、リサイクルされた素材を使用しているというFREITAGのコンセプトがとても素晴らしいと思いますし、好きです。ファンもそうなんだと思います。ファン全員がFREITAGの製品を使う事で環境及び素材のリサイクルに貢献しているという思いに喜びを感じるんでしょう。
マーカス:
FREITAGが行っていることは、ひとつの例にすぎないと思いますが、世の中に「まずリサイクルから物事を考える」ということに対してインパクトを与えていると思います。バッグを製造し、販売をすることによって生計を立てるのが最終的なミッションです。でも、それだけではなく、この商品の奥にある精神と姿勢があります。とても素晴らしいクオリティのバッグを製造するグッチやルイ・ヴィトンなどのラグジュアリーブランドと比べると、FREITAGが発信するメッセージはまったく違う事はお分かりいただけると思います。
星野:
そうですね。全然違う方向性ですよね。
ところで、トラックのタープを使用するのは御社が未だに唯一ですか。
マーカス:
この企業規模ではそうですね。我々がタープ利用を始める前には、トラック会社は破棄したり、時々農家にあげていたようです。

次のステージはアパレル。
土に還すことができる、
地球に優しい繊維を作るところから。

星野:
日本ではトラックのタープって見かけないですよね?日本ではハードトップのトラックですね。
マーカス:
アメリカもそうですね。
星野:
ヨーロッパではトラックには今もタープがかかっているんですか。それとも変化がおきていますか?
マーカス:
まだあります。一時期タープのレイヤーの層の中にメタルを入れ始めた事もあったようです。最近は元に戻りました。ご想像の通り、この素材には限りがあります。
よって我々は分解可能な素材の生地に注目を置き、私が今、着用しているような洋服を作り始めました。次の段階として、そもそも自然に還りやすい素材を育てるということが、未来に向けて必要なことだと考え始めました。タープは限りある資源を元に作られています。原料は石油ですし。ただ、本当に耐久性がありますし、これをリサイクルして使用することはよいことだと思います。自然素材で洋服を作り始めたのは、このタープのバックと同様の耐久性や防水性を自然にやさしいものだけから作るのは本当に難しいからです。
星野:
アパレル、洋服にも進出されているのですね。
マーカス:
生地でバッグも作っています。でも現時点では、ほとんどアパレルですね。
星野:
なるほど。
マーカス:
コーティングのことがあるのです。防水の素材はあるのですが、まだまだ種類がありませんし、開発の初期段階です。素材にもう7年の歳月をかけていますが、やっと1年半前から商品を作り、商品の一部を市場に出していますが、まだまだタープから作るバッグが主力商品なのは事実ですね。

この日マーカス氏が着ていたシャツは「F-ABRIC」のもの。ボタンは金属性だが、簡単に取り外しができ、リサイクルしやすい仕様になっている。 この日マーカス氏が着ていたシャツは「F-ABRIC」のもの。ボタンは金属性だが、簡単に取り外しができ、リサイクルしやすい仕様になっている。

星野:
新しいマテリアルはなんといいますか。
マーカス:
日本にもあると思うのですが、リネンや漂白したブナ材の繊維です。
星野:
天然素材を自分で育てているんですね、
マーカス:
1つはフランスのノルマンディ地方で作られるリネン生地です。同様の素材が日本にもあったと思いますが、とても素敵ですよね。もう1つは干し草を原料としたものです。これは伐採され、地面に置かれ、1年後に工場で加工します。化学繊維と綿は使用したくないのです。綿は地面から水分を摂りすぎ、土地の塩分を高くしてしまいます。
私たちの考えでは、リネン(亜麻)、ハンファ(麻)、モダール(ブナ材繊維)の3素材が地球に優しい素材であるとしています。我々の服はこの3つの素材を合わせて「F-ABRIC」と呼んでいます。
星野:
工場も作ったのですか?
マーカス:
昔から営業されていた工場です。我々は繊維のコンビネーションを作っただけで、逆に昔ながらのノウハウを工場のみなさんから伝授してもらっています。化学繊維と綿が登場して広まる前は、ヨーロッパ原産の繊維は、このようなものしかありませんでした。日本も同じだったのかも知れませんが。綿と化学繊維は、その他の繊維に比べると本当に安いですが、私たちはこのような昔ながらの地球に優しい繊維を取り戻したいと思っているのです。それが理由ですね。
星野:
この生地のアイデアはとても面白いですね。
マーカス:
私も大好きです。現実は厳しいですが、新しい試みに挑戦し、フレッシュであり続けることというのは厳しいことですからね。

ユーズドの味わいは、侘び寂びに通じる!?
FREITAGのバッグに通じるコンセプトを
ぜひ洋服にも感じさせてほしい。

星野:
私がFREITAGの商品が好きな理由のひとつとして、使用済みのトラックのタープを利用していて、それがわかるということがあります。ユーズド品であるということが見えるということです。
マーカス:
ユーズドには人が使っていた歴史がありますからね。
星野:
でも、星野リゾートのスタッフの中には好きではないというものもいます。
マーカス:
汚すぎるんですね(笑)。
星野:
私がこれを使っていることに対して、会社の社長が持つのには適さないというんですよ(笑)。でも私はそういった人が使っていたと風合いや歴史が好きなんです。
マーカス:
ユーズドを愛する感覚は、日本の「ワビサビ」の考えからきているということを教えてもらわなければ。
星野:
そうなんですよ。私が好きな側面はそれで、それが汚いだけと思うのであれば、それはそれでいいのかとも思うのですよ。

FREITAGの使用済みタープから作られた製品は、傷やしわがあちこちにあり、それが味わいになっているし、同じ物がふたつとないのが特徴FREITAGの使用済みタープから作られた製品は、傷やしわがあちこちにあり、それが味わいになっているし、同じ物がふたつとないのが特徴

マーカス:
木と同様、年輪を重ねるたびによくなる、というのが一緒ですよね。
星野:
だから私は、より使いこんだ風合いがある商品を選ぶ傾向がありますが、ファブリックの商品に関してはそれはないですよね?
マーカス:
そうですね、馴染み始めると少々あるかもしれませんが、商品を買っていただいた時点では、ユーズドの風合いはないですね。
星野:
FREITAGの商品のファンとしては、使い込んだ感じや今までのFREITAG製品と同調した何かを感じたいと思っています。ぜひ、その部分のアイデアを入れてほしいですね。
デザイン的にタープの部分を洋服の一部として取り入れることは出来ますか?
マーカス:
はい、それは可能です。「E002 WEISZ」シリーズというバッグは、そのようなスタイルですね。ストラップはタープから出来ていて、バッグ本体はオーガニックの素材から出来ていて、分解可能です。分解可能であれば、FREITAGの商品としてよいと思っています。商品としてのライフサイクルが終わった時に分解できれば、それは私たちの考えをきちんと表現できている製品だと思っています。
これはあるドイツ人の博士の思想から来ています。彼は科学の博士だったのですが、彼は現在若いデザイナーにデザイン思想を教えていて、その考えは「ゆりかごからゆりかごまで」という名前がついています。「全ての塵となるものはオーガニックでならなくてはならない」という考え方です。修理できるものは全て修理して使われ、たとえば金属のように自然に有害だったとしたら、それはオーガニックなものと一緒に処理されてはならず、それをもとにリサイクルして新しいものが作られるべきだという考え方です。
星野:
なるほど。ぜひ、トラックのタープがFREITAGの洋服のポケットなどにあしらわれているデザインを見たいですね。FREITAGのファンだったら、見た瞬間、この洋服には新しいコンセプトがあるとわかるし、元々の思想を理解してくれると思います。
マーカス:
そうですね。私もそう思います。
星野:
今のところ、洋服にはFREITAGのアイデンティティが一目で分かりやすくは見えません。今のままでは製品の情報を本気で探らないとわからないですよね。ユニクロの商品とは全く違いますが、マーケティング上は同じようなわかりやすいアイコンがないといけないと私は思います。
マーカス:
私も同意です。それはもっと努力すべきですね。

構成: 森 綾
撮影: 萩庭桂太