Vol.2期間限定の芸術祭を
「地域づくり」にする要素とは?

星野:
「都市が嫌い」って面白いなあ。
北川:
決定的にそうですよ。
星野:
でも気づいていないわけですね。
北川:
そうです。その潜在的欲求が根底にあると。
星野:
だからといって、地方へ引っ越せと言われたら引っ越さないのでしょうけれど。嫌いだというよりも、都会では満たされないということなのかな?
北川:
いや、「都市には本当の意味では何もない。情報と多少の便利さがあるだけ」ということです。たとえば自分にとって困難なことがあれば体を動かしますよね。そういうふうに人間として自分の力を発揮する場所がない。
星野:
誰かに頼むことはできても、ですね。
北川:
そう。だからそれが面白くないんだと思うんですけどね。その欲求が底流がある限り、いろんなところでやれると思う。これから、仕事の仕方は変わるかもしれませんが、少なくとも瀬戸内だと、小豆島は人口約3万ですが、芸術祭をやってから人口が400人増えました。移住者です。それと、男木島は学校が再開された。これは日本で初めてです。外へ出た人たちが子どもが帰りたいと言って戻った。そういう動きはあって、仕事次第ではやれるんですね。

星野:
多くの人が来る根底の理由が「都市が嫌い」というのが本当だとすると。他の地方の市町村も越後妻有や瀬戸内のような芸術祭をやりたがるでしょう。マラソンのブームがそうでした。そういうふうに、芸術以外に同じパターンが作れることはあるでしょうか?
北川:
どの芸術祭も意識してますが、特に「瀬戸内国際芸術祭」は、芸術以外のことを相当入れています。その総合性がダントツに支持されているのだと思います。
星野:
たとえば瀬戸内では何に力を入れられましたか。
北川:
まだ完璧ではないですが、とにかく大事なのは「食」ですね。せっかく島まで来てるのに「コンビニで買ってください」では来場者も困るでしょう。僕が言うのは、食事が悪かったらリピーターは来ないよ、と、それはうるさく言っていますね。1年間「食のフラム塾」というのをやりました。そういえば星野リゾートの人も来ていましたよ。私は料理はできないけど、食の大切さは言えますからね。現地の旬のものの勉強とか。映画「バベットの晩餐会」を上映して、こうして食を通じてみんなニコニコするでしょう、と。そこが芸術祭でも大事なんだと。
星野:
「北アルプス国際芸術祭」も「信濃大町 食とアートの回廊」というサブタイトルがついてますね。

芸術祭を総合的なイベントにするための食事や体験、宿泊にも力入れる。「奥能登国際芸術祭」では、「おくノート」プロジェクトとして、100の魅力を発掘し、発信をしている。
http://oku-noto.jp/oku-note/about/
芸術祭を総合的なイベントにするための食事や体験、宿泊にも力入れる。「奥能登国際芸術祭」では、「おくノート」プロジェクトとして、100の魅力を発掘し、発信をしている。
http://oku-noto.jp/oku-note/about/

北川:
総合的に楽しめるイベントとしてやっていかないと成功は難しいと思います。芸術展示だけでこっちがいい、あっちがいいというのは何の意味もない。それから、どこが当たるかは恣意的なんだけど、確率的に全国1800市町村あるとして、そのうち成功するのは5%とか、もう決まっているのです。絶対量としてそこに残るか残らないかという話だと思います。
星野:
成功する可能性は低いということですね。
北川:
ビジネスとしてはね。ただそれが地域にとっては必ず役に立ちますから、反対する理由は全くないと思っています。成功するかどうかでいうと、また別問題。一定のお金をかけなければいいものができるわけがない。中途半端な予算でやっているところは全滅するでしょう。この10年でいうと、あるとき、地域おこしの補助金がたくさん出た。これを使った芸術祭が僕がやっている以外にもたくさんあるのですが、今後は国が補助しなくなるでしょう。そのときに自立して成立するものは限られてくる。

アートを置くだけでは、意味がない。芸術祭の総合的な展開には地元の人たちとともに、食、体験、遊びなど様々なものを本気で提供することが大切 アートを置くだけでは、意味がない。芸術祭の総合的な展開には地元の人たちとともに、食、体験、遊びなど様々なものを本気で提供することが大切

星野:
今、芸術祭と呼ばれているものはどれくらいあるのですか。
北川:
実際、いくつあるかは分かりませんが数百はあるそうです。ある程度の規模があるのは150 くらいだそうですよ。
星野:
みんなアイデアが画一的になっていて、北川さんがやったような成功事例を見ると急に中途半端に真似し始めるから、同じようなものがたくさんあるかもしれませんね。それは観光地の特徴とも似ていますね。芸術祭という名前以外にも「都市が嫌い」という欲求なら、他の方向もあり得る気がします。
北川:
ええ、なんでもあると思います。みんな真似したがるだけで。芸術である必要はまったくない。ただ公的資金を得るために「芸術祭」と言いたがる人が多いだけです。

構成: 森 綾
撮影: 萩庭 桂太