Vol.2バーチャルが超リアルになっても
「ナマ」にはかなわない。

星野:
実際にYahoo! JAPANでは、どんなふうにAIを使っているのですか。
安宅:
はい。うちの事業は大きくいうと、2種類あります。1つはメディア的事業。ニュース、天気とか検索などのメディアがあって、それらを広告の収益で支える。もう一つはコマース系の事業。ヤフオクとかショッピング、旅行系のものですね。実際に商品を売って、ペイメントも利用してもらう。

前者は大量にAI的なものを使っています。そもそもメディア事業の中核の一つである検索というのは、AIの化け物のようなものですし。たとえば、検索ワード、文脈から意図を解析するところはAI的な情報処理が多面的に入っています。提供する情報も事前に解析して、意図に合わせて意味的にマッチングする、これらはAI以外の何物でもありません。

また、例えばメディアでニュースが流れてくる。あれは実は人それぞれに流れてくる情報が違っています。その人の過去の行動に合わせて、学習が行われていって、その人が見るものを設定する。飽きられないように最適化する。そこですごくAI的な技術を使っています。毎日何千と情報元から送られてくるニュースの写真も様々な形がありますが、これを適切に画面に合わせてくり抜くのにも先ほどのdeep learningの技術を使っていたりします。

さらに広告のマッチングですね。これもAI以外の何物でもない。リアルタイムでマッチングします。ある人が見ている、ある場面の瞬間に合わせて、100ミリ秒ぐらいのタイミングで、広告の在庫とあてていくわけです。今の行動と過去の履歴から想定される関心を予測して、あてる。これは完全にAIの仕事です。

実はコマースのレコメンデーション、商品検索した際のリスティングも購買予測に基いて組まれています。カートに入れる予測まで、AI的に行います。この会社の事業は行っている情報処理的に見れば、本当のところほぼAIなんです。

広告やショッピングのレコメンデーション機能は、もっとも身近なAI。ヒトとモノにまつわる嗜好を分析して、在庫とマッチングさせていく広告やショッピングのレコメンデーション機能は、もっとも身近なAI。ヒトとモノにまつわる嗜好を分析して、在庫とマッチングさせていく

星野:
そういえば、私はここのところ何を検索してもスキーの広告が出てきます。
安宅:
完全にリターゲティングされていますね。
星野:
みんなもそうなのかな? と思ったら全然違うっていうから。
安宅:
私もカメラばかり出てきます(笑)。
星野:
なんでこんなにマニアックな板を広告しているのだろうと思っていたのですよ。
安宅:
明らかに星野さんの興味嗜好が読み込まれていますね。
星野:
それはすごいよね。
安宅:
(笑)。ですね。おそらくネットでご覧になっている広告の多くがGoogleかYahoo! JAPANの在庫です。でも、過度に興味を読み込んでマッチングさせると気持ちが悪いし、不快ですよね。広告の場合、メディアと違うのは、イグザクト・マッチ(exact match)をあえて避けるようにしないといけないのです。過度にぴったり合わせると、気持ち悪いと思われてしまう。それともう一つ、その人の見えていない関心を当てられない可能性がある。そうなると広告の価値が落ちます。

幅は広めにしておいたほうがいいということです。かたや検索というのはそのものズバリが出てこないと意味がない。レーザービームのようにピンポイントで合わせないといけない。実は仕組み的には同じようなことをやっているですが、目的に合わせてユルさをあえて変えていたりするということです。
星野:
ぴったりだと気持ちが悪いというのは、よくわかります。
安宅:
レコメンデーションは全く違うロジックが4つか5つあります。ざっくりいうと、人であるかモノであるかということで分かれています。

その人に合わせるレコメンデーションというのと、ものに合わせるレコメンデーションは違うのです。人にあわせるレコメンデーションは狭い。特定の人の嗜好や過去の行動に合わせることをやりすぎるとあまり意味がないことが多い。

モノに合わせるというのは何かというと、あるモノに関心を持っている人は、他にどういうモノを欲するのかという個々の膨大なデータがあります。若干想像を絶していますが、これを買っている人がなぜかモノ同士は関連性のないあるモノを買うことが多い。そのような時に、理解不能なレコメンデーションが起こるのはそういうわけなのです。
星野:
なるほど。私たちの商品「旅」をレコメンデーションするヒントがそこにあるような気がしてきました。

じゃあ、「バーチャル彼女」で十分なのか?
怒らない設定にはできるけど。

星野:
AIが進んできた場合に「旅」というのは、今とどう変わるのでしょうね? 現地の様子は画像でキレイに360度見えてしまうし、動画でもシェアできてしまう。一度も行ったことがなくても、遠い地の情報は手に入りますし。旅に魅力を感じる人が減っていくような気がして心配なんですよ。
安宅:
旅の未来ですか。私はよりいっそう、人間は生(ナマ)、ライブに向かっていくはずだと思いますけどね。
星野:
そうですか?
安宅:
バーチャルリアリティ、VRが運べる情報というのは相当狭いんで。
星野:
ビジュアルしかないですね。
安宅:
はい。とは言いつつ4DXみたいなのもありますけれど。4DXというのは画像が3Dである上に、振動とか匂いとか音とか、首に寒い風が吹き付けられるとか、タコが自分の脚に絡まってくるとかいう疑似体験ができるものですね。
星野:
椅子がガタンと動いたりするあれですね。
安宅:
はい。あれを経験すればするほど、リアルを体験したくなりませんか。
星野:
それはそうかもしれません。
安宅:
たとえば「VR彼女」で十分な時代が来るという人は多いのですが「ホントかよ?」と、私は強い疑問をもっています。
星野:
旅もリアルがいいと思ってもらえるかな。VRの旅がリアルの旅を邪魔することはないか。心配なんですよね。その対策のひとつとして、私たちは自分たちのサイトで施設や滞在の情報を出し過ぎないようにしようとしているんです。

画像もふくめ滞在の様子を出し過ぎてしまうと、実際にそこへ行ったときの発見や感動がなくなるじゃないですか。
安宅:
確かに、ガッカリが増えるかも。
星野:
事前情報で予定、計画されていることがその通りに起こり、それで終わりになるというのは非常につまらないことです。発見を残しておくということが大事なんじゃないかと思っているのですが。

事前から組まれた予定をこなすだけの旅なんて、ツマンナイですよね。でも、予定を見せないと旅に出てくれれない。そこが難しい。事前から組まれた予定をこなすだけの旅なんて、ツマンナイですよね。でも、予定を見せないと旅に出てくれれない。そこが難しい。

安宅:
同感です。「意味深な写真」が2、3枚あればいいと思います。かなりクオリティの高い。ただそれが素人の写真しかないと、逆に行く気がなくなっちゃう。そそられない。プロの写真がないと。
星野:
でも意味深なのが3枚だと予約は入ってこないでしょうね(笑)。そこまで旅にリスクを冒す人はいないなぁ。

旅大好きの安宅さん。自らの旅体験で一番印象深かったのは「ドロッドロ体験」だとか旅大好きの安宅さん。自らの旅体験で一番印象深かったのは「ドロッドロ体験」だとか

安宅:
じゃ30枚(笑)。
星野:
何枚かはさておき。リアルな場に発見をどう残すかということですね。発見がもう絶景じゃないのかもしれない。絶景は画像になりますからねぇ。味とか。なかなか画像にしにくいものが必要ですね……。
安宅:
あとは人との会話でしょうね。コミュニケーションだけは現場でないと成り立ちません。
星野:
そうですね。沖縄の竹富島に「星のや竹富島」がありますが、その島の「おばあ」に会えて話せてよかった、というお客様はたくさんいらっしゃいますね。数年後に大阪にも施設ができますが、「大阪のおばちゃん」に会いたくて大阪に行くという人もいるかもしれない。その土地に行かないと会えないわけですものね。そういうコンテンツを伸ばしていかないといけないですね。
安宅:
土にまみれるという体験もいいと思いますね。3~4年前に奄美大島に一週間くらいいたことがあるんですが、いちばん憶えているのは、大島紬の泥染めをやったことなんです。本当にドロッドロで(笑)。
星野:
やろうと思ってやったというよりも、やるハメになったというところはないですか。
安宅:
そうですね大島紬博物館みたいなところに行ったら泥染め体験することになってしまい、気がついたらドロッドロ。
星野:
それは結果的に素晴らしい体験で思い出に残っているのでしょうね。ただ、安宅さんはもともと能動的に「ドロッドロ体験」を選んではなかった。「ドロッドロになるために旅に行こう」とは思わないですよね。「ドロッドロになりに行こう!」というのが旅の動機にはならないところが難しいんだよな。
安宅:
うーん。そうですね。その楽しさに偶発的に出遭わないといけないわけですよね。

構成: 森 綾
撮影: 萩庭 桂太