Vol.2ミドリムシの生体に迫る!

星野:
で、ミドリムシだけど、栄養があることを知っているのは、世界では常識なんですね?
出雲:
そうです。皆さんはご存じないですけど、農学部の農芸化学で栄養の勉強をしている人はみんな知ってます。
星野:
なるほどなるほど。だから培養して人工的に作る、だけど増やすことがとても難しい。
出雲:
できないんですよ。栄養価の高さゆえに、培養している間にどこからかバクテリアやプランクトンが来て食べちゃうから。
星野:
効率が悪いということですね。
出雲:
もうずっとそれを繰り返してきたんですね。研究は、基礎研究と応用研究があり、実際に社会貢献するための社会実装の3段階があるんですけど、ミドリムシはずっと研究止まりで、一般社会にデビューする日は来ないと、みんな思っていましたね。
星野:
なるほど。それで研究自体は長く続いたんですか。
出雲:
もうずっと!本当に大御所のような先生が延々とやって、相当お金も使って、当時の科学技術庁とか通商産業省から大変なお金をいただいていた。こんなマニアックなことを知っている人は少ないと思うんですけど、「ニューサンシャイン計画」という計画があったんです。 「万が一、オイルショックの後、食料が輸入できなくなったときに、みんなミドリムシを食べて生き延びて、地球温暖化の原因になっているCO2もミドリムシの光合成で削減させて、さらにはミドリムシからバイオ燃料を取り出して、日本の悲願である国産エネルギーを創り出そう」という計画です。真面目に通産省が計画を立てて、研究をして、それで10年経っても20年経っても培養ができなくて、「ミドリムシの屋外大量培養は不可能」と言われていたのです。私
星野:
この栄養価はすごいから、国家プロジェクトとして進めようという時代があったということですね。
出雲:
そうです、そうです。だから知っている人は知っている。
星野:
私たちは知らないわけだけど、こんなに栄養価があって、こんなにすごくて、だけど長年国家プロジェクトになっているぐらい大事な話だったのに、なかなか培養できないという。そこがネックになっていたということ。それを出雲さんがブレークスルーするということなんだけど、今回実際にバイオ燃料製造実証プラントや石垣島にあるユーグレナ社の生産技術研究所で学びましたけど、そこには、ユーグレナ社の数々の秘密が隠されていまして。どうやって培養しているかってね。
出雲:
私が研究をしたのは5年間ですけど、それは、これまで研究を続けられてきた先人の肩に乗らせていただいてやっただけですから、本当にもうゴール直前でバトンが回ってきて。当時、私と創業メンバーの鈴木の他に、ミドリムシを研究している同世代の若い人はいなかったんです。
星野:
簡単に言うと、みんな無理だと思っていたということでしょう?偉い人たちや、これだけ頭脳明晰な人たちがさんざんやって無理なんだと。だけど、出雲さんがそれを引き継いで、無理でもやろうと思っていたのが、例のバングラデシュの話に戻るのですね。
出雲:
そう。バングラに私が持っていかなきゃいけないから。諦めている場合じゃないだろうと。
星野:
そのとき確信があったんですか?何となくこれいけると。私ならいけるみたいな。
出雲:
いや、だって、‘はたち’ですよ。20歳だったら何か、何でもできる気するじゃないですか。
星野:
そうかもしれないけどね。で、そこから5年ですね。
ブレークスルーは銭湯の中で思いついたんでしょう?うち(星野リゾート)は風呂屋、温泉旅館だから。(皆に向かって)大浴場の中で思いついたらしいですよ。
星野:
ミドリムシみたいに、液体の中に自分が浸かっているときに思いついたんですね。
出雲:
そう、ぱっと。私は全部そうです。
星野:
それがブレークスルーの秘密なんですよ。
出雲:
でも、お風呂に入ったらひらめくというわけじゃないですよ。これも順序があって、頭がちぎれるまで実験して、考えて、実験して、考えて、もうへとへとになって…。 当時、ミドリムシの屋外大量培養について、ミドリムシを研究している日本中の大学や研究所を回って、一人一人に会いに行っていました。お金がないから、日本中夜行バスで移動していたんですね。夜行バスって、大体何か高速道路が空いていると、早く着き過ぎちゃうんですよね。で、大学の先生って9時にならないと大学に来ないので、6時とかに着いちゃったら、時間あるわけですよ。どこに行っても、お風呂に行って時間つぶすしかないんですね。だから私、日本中のバス降りたところのお風呂屋さんは、今でも全部頭に入っています。お風呂に入って、今日その先生とどんな研究の、どんな話しようかなというのを考えているときに思いつくんですよ。
星野:
出雲さんは20歳から25歳くらいまでの間に体験しているじゃないですか。一般的には、アスリートも、ミュージシャンも、アーティストも、24,5歳になると、これで食っていけるかな?と、ちょっと不安が出てくるじゃないですか。その頃になると、自分のレベルが分かってくるし、たどり着けるゴールが見えてくる。研究者もずっと結果が出せないままでて、ブレークスルーも見つけられず、不安はなかったですか?

結果がすぐに出なくても諦めずにミドリムシの研究を続けるという‘研究者’マインドに感心する星野氏。「研究魂は次世代にも引き継ぐもの」と出雲氏。

出雲:
いや、それは面白いですね。そんなこと考えたことなかったです。
今41歳で、まだ培養方法を思いついていなかったらということですよね。
星野:
そうそう。恐らく41歳までそのままやり続ける人ってなかなかいないと思うんですけど。研究者の世界って、たどり着けるかどうかわからないものを必死に研究しているという。
出雲:
はい、そうですね。研究と言うのは、自分が生きている時にたどり着けるかどうかはわからないんですよ。みんなそれを分かってやってますから。で、特に魂の記憶じゃないですけど、日本は石油が採れなくて苦労してるじゃないですか。だから日本で科学研究している人で、バイオ燃料に興味がない人はほとんどいないと思います。
星野:
次世代にちょっとでも進化させて引き継ごうと。
出雲:
研究は一世一代とか、そういう短いスパンでは考えてないんです。私は、たまたまバトンが回ってきたときにデビューが決まったようなもの。だからミドリムシについては、本当に責任重大なんです。
星野:
なるほど。今、一つ思いついたんですけど、逆に出雲さんのブレークスルーによって、ミドリムシの研究者が若者の中で増えてきている現象はあるんですか?
出雲:
あぁ、そうですね、ミドリムシの研究者…。でも実際に、ミドリムシや藻類の研究者がうちの会社に来ることは多いですね。(笑)
星野:
なるほど、そうか。
出雲:
アメリカにもいるんですよ、ミドリムシの研究者。ジョン・ベネマン教授とかいい先生がいるんですけど、日本に比べたら遅れていますね。 何でか、分かります?
星野:
風呂がないから。(笑)
出雲:
ああーっ、惜しい!それも、そう、大浴場がないから(笑)。二つ目が、今日既に星野さんも正解を言っていましたよ。星のや竹富島のプールは、四角いと西洋に見えると。水たまりの丸で、竹富島っぽいプールになったというお話をさっきしてくれたんです。

自然との関り方、文化、
発想の違う‘欧米と日本’

出雲:
運命ってあると思いますよ。それをミドリムシ的にお話すると、西洋の人というのは、人に対して自然は敵なんですよ。自然というものを細分化して、自然というものを克服するために、人間は神様から特別な使命をもらったと、欧米の人は人間と自然というものを対比して捉えたんですね。ですので、そういう西洋の研究者の感覚でいうと、ミドリムシは微生物じゃないですか。微生物というのは、全部バイ菌なんですよ。そのバイ菌というのは、全部人間がコントロールするものであって、やっつけるもの、殺菌するための‘悪もの’なんです。それを殺す、バイ菌をやっつけるのがいわゆる抗生物質すけど。 で、日本は、自然と自分が一体となっていて、自然の良さを生かして人間が豊かになったらいいよねと、自然に考える。ヨーロッパの人は絶対こう考えないですよ。日本人は善玉菌とか醸造とか発酵については、英語でもfermentationという言葉があるんですけど、発酵の研究者が当たり前のようにいる。欧米には発酵して良くなるよね、なんて思っていない。
星野:
そうなんだ、なるほどね…。
長谷川(浩己)さんっているじゃないですか、私らのランドスケープアーキテクト。この風景(竹富島)に合うプールって何なんだろうというときに、図面の段階では、最初デザイン四角だったんです。それがちょっと西洋に見えちゃうんですよね。だからど真ん中に西洋が見えて、琉球らしくないとか、竹富の原風景に合わないとかっていうふうに思い始めて、2人で集落を歩いているときに雨だったんですよ、たまたま。で、舗装していない道が多いから、水たまりがあちこちにいっぱいできて、そこから彼がヒントを得たんです、水たまりから。水たまりって、真ん中辺にちょっと水がだんだんたまっていくんですけど、そのイメージからこのプールができ上がって、やってみたら、本当にいい感じのフィット感で、よかったなと思って。

【星のや竹富島】の敷地内中心に作られた美しいプール。四角形ではなく、円形にすることで竹富島の空気感にもリゾートにもピタリと嵌った存在に。

出雲:
それが完全に日本の発想なんですよ。ヨーロッパの人だったら、自然をそのまま生かしたら人間が負けていると考える。だから、コンクリート持ってきて、四角のでかいプールをドンと作る。「ギリシャ時代から人間というのはこうやって、これが一番、俺が格好いいと思ってきたんだ」と。別にどっちがいいとか悪いとかじゃなくて、本当に違うんですよ、考え方が。
星野:
やっぱりあれじゃないですか。八百万の神の日本と、向こうは一神教の神、ジーザス・クライストの世界との差かもしれないですね。こういう文化の差が、自然への対し方も違ってきたのかもしれないですね。
出雲:
そうなんですよ。
星野:
日本ってあちこちに神がいるみたいな考え方になるから、そこで、日本の神の場合は面白くて、飲んだくれている神がいたりする。まあバリ島なんかも逆にそうなんですよね、多神教の世界なので、日本にむしろ近いんじゃないかな。東洋と西洋の差はそういうことかも知れない。出雲さんが言っているのは、西洋的な文化では、ミドリムシのような微生物の研究は進みにくい、こういうことなんですよね。

出雲氏が気付かなかった‘ぽっちゃりミドリムシ’がバイオ燃料への道を開いてくれたと対談の‘核心’に迫る。

星野:
何となく分かる気がします。

‘ぽっちゃり型ミドリムシ’から
生まれたバイオ燃料

出雲:
そう、核心に迫るバイオ燃料の話をしなきゃいけないので、いいですか。
星野:
はい、お願いします。
出雲:
私は栄養がバックグラウンドなので、いろんな水たまりからミドリムシを見つけてきて、ミドリムシの身体測定をするんですね。身長、体重測って、ビタミンCやカルシウムなどの各栄養素がどれぐらい入っているか、ミネラルたっぷりかどうか、食物繊維はどうだって調べるじゃないですか。そういうのを日々やっているときに、「お前本当にミドリムシか?」というぐらい、どーんとぽっちゃりしているのがいた。それで、こんなにぽっちゃりしているんだし、ビタミンCが他のミドリムシより100倍入っていたら、これはいいなあと思って、いろいろ身体検査したら、何も入っていないんですよね。
ああ、こいつ本当に駄目だと。でも、実は全部油[脂]だったんです。油[脂]なんか分析してもしようがないので、これはちょっと残念だけど‘控え’ということで、しまっておいたんです。それで、15年前にバイオ燃料をやりたいって、当時の新日本石油(現在のENEOS)の担当の方にミドリムシを絞って油が欲しいと言われて。あのぽっちゃりミドリムシを思い出して「あのミドリムシなら油が多いからいいんじゃないか」と思って渡したら、そのぽっちゃりミドリムシの油は普通の油ではなくとてつもない油だったんです。油の質が違った。
せきね:
それがジェット燃料に使われる「油」だったんですか?
出雲:
そう。すごいピュアな、これジェット燃料の原料に適している質の良い油だったんですよね。そのときに、「ジェット燃料になるんじゃないの?このミドリムシ」と言われて、私はそのとき栄養の勉強しかしてこなかったので、それこそ軽油と重油の違いも知らなかったんですよ。でも、担当の方ががこれは結構いいぞという話をしてくれたので、じゃ、ちょっとやってみようと。そこからもう急にやる気が出てきて…。
星野:
なるほど。そんなきっかけだったんですか。
出雲:
そうです。あの時担当の方にに言われなかったら、多分、軽油と重油も知らないぐらいですから。
星野:
油がいっぱいのミドリムシ見つけたけど、それがどういうポテンシャルがあるかというのは理解していなかったのが、要望に応えたことをきっかけに、急にそこにチャンスを見出したと。
出雲:
そうしたらもう今はヒーローですから、「ぽっちゃりミドリムシ様、すみません!」と言って、一番いい席に座ってもらっています。

ミドリムシは世界中に100種類以上も有ると聞いて、星野氏の興味はそれぞれの役割があるのかと深堀り。

星野:
すごいですね。ミドリムシで全く出番がないと思っていたのが、急に世の中の役に立つものだったという。ちなみにミドリムシって、何種類ぐらいあるんですか?
出雲:
私が把握している限りで、多分世界で一番把握していますけど、100種類ぐらいいるんですね。
星野:
それはもしかすると、一つ一つが何か違った役割を果たせるかもしれないという、そういうポテンシャルを持っている。
出雲:
私本当に反省しているんですけど、ぽっちゃりミドリムシに出会うまでは人に対して「できが悪いな」とか思ったことがあったんです。けど、今、どんなことがあっても、「ちょっと待てよ」と思う。昔、このぽっちゃりミドリムシと出会ったときに、自分はすぐその才能を見抜けなかったと。だから自分の今の尺度だけで何かの良し悪しを決めるのは、それだけは本当に一生やめようと思いました。
星野:
なるほど。で、今、石垣島の研究所の方々は、工場でいろんなミドリムシ研究をしていらっしゃるんですね。
出雲:
はい。
星野:
いろんな、"株"っておっしゃっていましたね。
出雲:
はい。そうですね。いろんなシリーズ、株、品種があって、おもしろいんですよ。いろんな種類のミドリムシがいて、さっきのぽっちゃりミドリムシみたいに、このミドリムシはバイオ燃料にいい、このミドリムシはアトピー性皮膚炎とか花粉症とかに良さそうだ、というのがあります。
星野:
なるほど。じゃ、どっちかというと、栄養だけじゃなくて、それぞれがどんな特徴があるんだろうかということで新しい分野に。
出雲:
そうなんですよ。もういろんな個性を生かしていかなきゃいけないんで。
星野:
ちなみに、私が話しちゃいますけど、ミドリムシは推定約5億年生きているという話なので、5億年生きていたら、人間よりもはるかにすごいですよね。それだけ地球上で生き延びてきている。
星野:
光合成ができないときも含めて。
出雲:
で、普通の植物はみんな動けなくて枯れて死んじゃったんですけど、ミドリムシは「あ、何かこっちにちょっとだけ明かりがある」とか、雲間だってちょっとあるじゃないですか。そういうところに行って光合成して。5億年生き延びたので、ミドリムシに比べたら赤ちゃんみたいな人間が幾ら考えたってしようがないんですよ。 ミドリムシなしで気候変動対策というのは不可能ですよね。
星野:
5億年生き残るというのは、ミドリムシは何か生命力があったということなんですね。
せきね:
ミドリムシって、人間の中に摂り入れると、今、人生100年時代と言われていますが、これが200年になる可能性もあるということですか?
出雲:
200年はちょっとならないんですよ。なぜなら、全ての動物は、心臓の心筋細胞、心臓の拍動する回数というものが決まっていて、それが大体人間で100年から120年なんです。正確には多分、120歳から150歳ぐらいなんですけど、心臓の鼓動の回数を延ばすということは、ちょっと原理的に難しい。
星野:
なるほど、なるほど。面白いですね。心筋細胞というのは、確かに勝手に動き続けているから。
出雲:
はい。ネズミも象も人間も大体回数一緒なんですよ。不思議ですよね。
もうとにかく、私は当たり前にしたいんですよ。
せきね:
それは、バイオ燃料を当たり前に使うこと?
出雲:
そうです。ミドリムシを使ったバイオ燃料を、皆さんの生活で当たり前にしたいので、飛行機のジェット燃料はできますと。でも、ほかのものは駄目ですというと、ああ、何かミドリムシってちょっと特殊だねってなっちゃうじゃないですか。ですから、もう飛行機もバスもトラックも車も船も、何だったら普通の農作業のときにやる草刈り機も、とにかくミドリムシでできないことが無い状態にしたい。だから全部です、全部。
せきね:
それはすごいですね。