Vol.2岐路に立つ、展望タワーの生存戦略

星野:
これからもっとタワー界を盛り上げていくために、何を拠り所にしていけばいいのか。現状の課題はどこにあるんでしょう?
かねだ:
展望タワーは、戦後、昭和の高度経済成長期に建てられました。日本に現存している一番歴史が長いタワーは、昭和29年につくられた「名古屋テレビ塔(現・中部電力 MIRAI TOWER)」。二番目がいま私たちがいる、昭和31年に建てられた2代目の「通天閣」です。ちなみに初代通天閣はパリのエッフェル塔を真似て、明治45年に建てられたんですが、1943年に焼失してしまいました。
展望タワーは、街にとっては戦後復興のシンボル、人々にとっては観光レジャーの中心地でした。でも、平成、令和と、都市部に高層ビルが建ち、レジャーが細分化する中で、展望だけでお客さんを呼び込むのが難しくなってしまった。多くのタワーが存続の岐路に立たされています。
星野:
昭和の時代は、タワーにのぼらないと見られなかった景色が、いまでは高層ビルやオフィスからでも見られるようになっていると。
かねだ:
はい。ここ数年は、耐久性の問題もあって、リニューアルして存続するか、廃業するか、多くのタワーが分岐点にいるんですね。
星野:
そうすると、高いタワーにのぼってその街の景色を見るという観光のかたちに、何かしらの付加価値をつけていかないといけないのかもしれませんね。

通天閣5Fから階段を登って屋上の羽出し展望台「展望パラダイス」へ。風を受けながらスリルと絶景が味わえる通天閣5Fから階段を登って屋上の羽出し展望台「展望パラダイス」へ。風を受けながらスリルと絶景が味わえる

かねだ:
私は大前提として、タワーの一番の価値は展望ができることにあると思っています。ただ、展望できる景色に変化があることは、一度ならず何度も訪れる理由にもなるのかなあと。
星野:
そうなったときに、アートとか、タワー側ではなく、見える景色に価値を置くやり方もありそうですね。
かねだ:
まさに、埼玉県行田市の古代蓮会館展望室は、のぼった先で田んぼアートが見られるんです。毎年開催していて、今年も見に行かせていただいたんですが、浮世絵と歌舞伎を描いた田んぼアートは圧巻でした。コロナ禍でも大行列でしたね。

古代蓮会館展望タワーから見られる、世界最大級の田んぼアート。総勢約570名で田植えをして描いた作品『田んぼに甦るジャポニスム~浮世絵と歌舞伎~』古代蓮会館展望タワーから見られる、世界最大級の田んぼアート。総勢約570名で田植えをして描いた作品『田んぼに甦るジャポニスム~浮世絵と歌舞伎~』

星野:
それはいい。急にのぼりに行きたくなりますね。

展望タワーをホテルに?
リニューアルの方向性を探る

星野:
リニューアルしてうまくいっているところはあるんでしょうか?
かねだ:
オリンピックのインバウンド需要を見込んでのリニューアルだったので、コロナ禍の現時点で成功していると言うのは難しいとは思います。ただ、大胆なリニューアルで若者の集客に成功しているタワーはありますね。
星野:
どこでしょう?
かねだ:
香川県にある「ゴールドタワー」は、天空アクアリウム「ソラキン」として、窓に水槽があって金魚越しに景色が見えるんです。足元にある四国水族館との相乗効果を狙っているのかな、と思うんですが。リニューアル前は割と普通の展望施設で、8回くらい行っているんですが、こんなに世界観が変わることある!?と驚きました。インスタ映えということもあって、若者や家族連れが多く訪れている印象です。

ゴールドタワーの天空には、3,000匹以上の金魚が泳ぐ。金魚越しに瀬戸内海が見渡せるゴールドタワーの天空には、3,000匹以上の金魚が泳ぐ。金魚越しに瀬戸内海が見渡せる

星野:
なるほど。リニューアルの方向性として、展望タワーをホテルに改装した例はありますか?
かねだ:
名古屋テレビ塔は、「THE TOWER HOTEL NAGOYA」としてホテルにリニューアルされました。ホテル自体は4階、5階のフロアにあるんですが、一般の営業終了後に宿泊者は展望台にのぼって、夜景を楽しむことができます。
星野:
そうすると、展望台をホテルにした事例はまだないんですね?
かねだ:
営業しているタワーの展望台に泊まれるホテルはないですね。

東京スカイツリーは集大成。
その後に誕生した2020年代の新タワー

かねだ:
タワーの歴史としては、1950年代から2000年代までは新しいタワーが建造されてきたんですが、2010年代からは新しいタワーがほとんど建てられなくなってしまって。2012年の「東京スカイツリー」がある意味、集大成になっているのかなと思いますね。
星野:
東北にスキーに行って帰ってくるときに見るスカイツリーは、圧倒的な存在感と迫力がある。東京の力を感じて、好きですね。
かねだ:
建造物として日本一、自立式電波塔としては世界一の高さを誇っていますから。あと、墨田区の下町からニョキッと突き出ているのが味わい深くていいんですよね。
スカイツリー以降、新しいタワーが建造されることは期待していなかったんですが、実は今年、2021年7月に、新しいタワーができたんです。
星野:
そうなんですね。どこですか?
かねだ:
富士急ハイランドエリア内にある「FUJIYAMAタワー」です。もともとはジェットコースター「FUJIYAMA」の点検塔として建てられたものなんですが、あまりにも美しい富士山が一望できるということでお客さんにも開放することをにしたみたいなんです。

高さ55mから富士山の左右に広がる稜線を裾野まで一望できる。特徴は、ジェットコースター「FIJIYAMA」が目の前を通過すること!高さ55mから富士山の左右に広がる稜線を裾野まで一望できる。特徴は、ジェットコースター「FIJIYAMA」が目の前を通過すること!

星野:
行かれました?
かねだ:
オープンした翌日に行きました。

タワーに詳しい、かねださんの話に前のめりの星野タワーに詳しい、かねださんの話に前のめりの星野

星野:
さすが、タワー博士。チェックが早いですね。