ハンター自身が運営することで、
ジビエに新しい価値を
- 星野:
- よろしくお願いします。ジビエの流通に関わる会社「Fant(ファント)」を立ち上げられて、ご自身もハンターでいらっしゃる。そんな高野さんのお話を聞けるのを楽しみにしてきました。
- 高野:
- こちらこそよろしくお願いします。じつは試食していただきたいと思って、今日はこれを持ってきました。
狩猟の話が軸になるだけに、話題の入り口となったのはシカの生ハム
- 星野:
- すごいですね、これは。生ハムですか。
- 高野:
- はい、生ハムをスライスする前のかたまりです。木のように見えることから原木(げんぼく)って呼ばれています。
- 星野:
- なるほど、確かに木みたいですね。
- 高野:
-
これは去年の7月ごろに獲ったシカで、うちの施設で解体して、札幌にある生ハム加工工場さんでつくっていただいたものです。まだフレッシュなので野性味が強めですし、香りもシカっぽさが残っていて好みは分かれるかもしれないですけど。
- 星野:
-
あ、美味しい。私、こういうのは好きですね。ホテルの魅力をつくっていく仕事の一環として、日本の地方文化や料理を考えることは多いですけど、いまジビエが注目されるのはよくわかりますよ。そこにいい素材があるなら、きちんと活かしたいですからね。うん、これはいいな。
さまざまな地方の名産を口にしてきた星野も絶賛。「さすが、北海道のシカは旨味が強いですね」
- 高野:
- よかった。いろいろ試してみたんですが、お肉としての存在感が強いのでじゃがバターにのせたりすると美味しいですし、塩味の少ないモッツァレラ系のチーズなんかともよく合います。
高野さんおすすめのひと皿。生ハムの塩気と香りが、じゃがいもの甘みを引き立てる
- 星野:
- なるほど。そうやって食の楽しみが広がっていくのは素晴らしいことですよね。じつは星野リゾート トマムでもジビエに力を入れていて、この「OTTO SETTE
TOMAMU」のお料理は素材もいいし独創的だと、お客様からも良い評価をいただいています。
ジビエにも力をいれているOTTO SETTE
TOMAMUで提供される「エゾシカ肉のフリットゥーラ」
- 高野:
- 先ほど仕入れのシカを拝見したんですが、すごくいいものでしたね。
OTTO SETTE
TOMAMUのシェフ武田(左)を交えて。雑談の中にも、ジビエの幅広さやその味わいについての深い話が繰り広げられた
- 星野:
-
大きなかたまりだったでしょ。仕入れるときには、比較的大きな状態で仕入れているんですよ。そうすることで若手のコックさんたちの解体の技術向上につながります。シェフも素材とじっくり向き合うことができるので、インスピレーションを得られるみたいですね。
- 高野:
- そうやってジビエを積極的に取り入れてくださるレストランが増えてくれることは、ほんとに嬉しいと思っています。
複雑で濃厚なジビエの味わいに感動!
食べ放題を夢見てハンターに
- 星野:
- 高野さんがジビエと関わるようになったのは、どういうきっかけからですか?
- 高野:
- 私、北海道の十勝平野の出身なんです。東京の美術系の大学を出たあとは都内でグラフィックデザイナーをしていました。そのとき、たまたま三軒茶屋でジビエのお店に入ったら、ものすごく美味しかったんです。
- 星野:
- うんうん。
- 高野:
- 味が力強くて、濃厚で複雑で。ジビエってこんなに味わい深いものなんだ、ってビックリしたんです。そのお店には猟銃の模型が飾ってあったんですが、それを見たときに "そうか!これがあれば、ジビエ食べ放題だ!!"
って思ったんです。
終始明るい笑顔が印象的だった高野さん。ジビエを食べる話になると、その笑顔はいっそう輝いて見える
- 星野:
- その発想はなかなかユニークですね。美味しい、もっと食べたい、それなら自分で獲ろう、ということですか?
- 高野:
-
はい。
- 星野:
- それで、どうなさったんですか?
- 高野:
- 調べてみたら狩猟をするためには狩猟免許と、銃の所持許可が必要だということが分かりました。それで狩猟免許の勉強をして、試験を受けました。同時期に書類を揃えて、所轄の警察に行って銃の所持申請もしたんです。
身辺調査の心配事は、自分は周りの人からどう見られているのか?
- 星野:
- 銃の所持許可、っていうのがあるんですね。知りませんでした。でもそれは、くださいといってすぐくれるようなものじゃないですよね?
- 高野:
- はい。まず筆記試験と何種類かの実技試験があります。実技は実際に銃の扱い方を見られるので、けっこう難しいんです。それに受かると身辺調査があります。
- 星野:
- 身辺調査?
- 高野:
- 会社の上司や友人や実家に警察から連絡が来て、この人は銃を持っても大丈夫な人ですか、って確認されるんです。
- 星野:
- 身辺調査はイヤだなぁ(笑) でも試験の結果だけで判断するんじゃなくて、所持しようとしてるのが人としてどういう人なのか。それを知るために周りの人に聞いてみる、っていうのは理にかなってますよね。
- 高野:
- そうですね。私も身辺調査の時はちょっと心配で。銃の所持許可がもらえるかどうかよりも、自分は周りからどう見られてたんだろう、心の中であの人は....て思われてたらどうしよう、っていうほうが気になりました。
「え、そうなんですか?」「そんなことになってるの?」「へぇ〜、知らなかった」と、狩猟の話に星野は感嘆を繰り返した
- 星野:
- でもまぁ、なんとかなった(笑)
- 高野:
- はい。どうやら周りの人には、そんなに心配はかけてなかったみたいです(笑) それが済んだら精神科に行って、私自身が精神的に健康ですっていう診断書を書いてもらいます。
- 星野:
- やっぱり銃を持つっていうのは大変ですね。それで、ジビエは食べ放題になったんですか?
- 高野:
- それがそうはいきませんでした。東京に住んでいたので、奥多摩などの山間部で狩猟をすることも考えたんですが、どうしてもフィールドが限られてしまいます。狩猟に出かけること自体が大変なんです。
- 星野:
-
そうですよね。ハンターは獲物がいるところに行かないといけないですもんね。
- 高野:
-
はい。それなら狩猟が盛んな北海道に帰ったほうがいいなと思って、地元に帰ることにしました。
- 星野:
-
一大決心をいとも簡単に、ですね。そのレストランでジビエに感動してから銃を手にするまでは、何年くらいかかったんですか?
- 高野:
-
たぶん半年くらいです。
- 星野:
-
半年! じゃあもう本当に、わーっと進んだ感じですね。
テーマが
”狩猟をどうやってビジネスに変えていくか”に移っていくと、対談は経営者どうしのユニークな意見交換へ
- 高野:
-
はい、自分でも驚きました。
- 高野:
-
それってすごいですよね。だって東京でデザイナーやってた人が、地元に帰って猟銃を持つようになるんですよ。ジビエレストランで、人生変わっちゃうぐらいの衝撃を受けたんですもんね。高野さんのなにかと、ジビエっていうのがものすごく共鳴したんでしょうね。いやぁ、すごいなー。