Vol.2現地で人に会い、そこから始まる旅。
そっけない態度の奥にある
真のやさしさ。

星野:
海外だけじゃなく、国内旅行も楽しいですよね。加藤さんにとって、国内旅行の楽しみというのは何なんでしょうか。
加藤:
やっぱり各地の友達に会いに行けることが大きいでしょうね。宮崎の閑村には、友達の家族が住んでるんです。私の息子ともいえる子たちで。あとは石垣島にも親しい人が多くて、よく行きますね。
星野:
日本中に友達がいらっしゃるんでしょうね。
加藤:
やっぱり、人と交流したいときは、現地まで行って実際に会いたいのよね。西表島には、石垣金星さんという唄者がいて、その人にも会いましたよ。
星野:
石垣金星さん、有名ですよね。
加藤:
金星さんの奥さんもすばらしい方なのよ。布の作家の、石垣昭子さんという方なんですが、彼女と三宅一生さんの対談を読む機会があったの。そこで、昭子さんが「私達の作ってるものはプロダクツでは作れない、たったひとつの作品だ。」とおっしゃっていたんです。一方、一生さんは、自分たちは大量生産品をつくっているけれど、昭子さんのような考えを持っている人とは、常に対話する必要があるとおっしゃっていて。それを読んで、もうこれは昭子さんにも会わなきゃ行けないなと思って、連絡して。
星野:
なるほど。

加藤登紀子さん

加藤:
で、現地に行ったんだけど、まず石垣島の船着き場で仲間達が迎えてくれて。それで、今から西表で金星さんの歌を聴きに行くと言ったら、みんなついてきちゃって(笑)。結局、7~8人で金星さんのところへ行くことになったんです。で、家について、昭子さんに布を見せてもらったりしてたんだけど、金星さんはいなかったの。どこにいるか聞いたら、山にいるって言うのね(笑)。日が暮れたら帰ってくるんじゃないって。私、行く時間はちゃんと伝えてたんだけど(笑)、しょうがないからガジュマルの木の下で、ずっと待ってたの。元々、日帰りのつもりだったんだけど、みんなで民宿も予約して。そしたら、夕方、金星さんが山から帰ってきた金星さんが、「あ、来てたの」って驚いてて(笑)。
星野:
加藤さんが来ることも知らなかったんですか?
加藤:
いや、だからちゃんと言ってたのよ(笑)。それで、金星さんのためにわざわざ宿を取ったことを伝えたら、風呂入って飯食ってからもう一回来てくれって言われて(笑)。
星野:
なるほど(笑)。
加藤:
風呂入ってご飯食べてもう一回行ったら、部屋も片付いてて、すぐ歌を聞かせてくれるもんだと思ってたら、まず酒盛りから始まったの。金星さんが「あんなもんはこの机に酒瓶が10本くらい並んでからやるもんだ」って言ってさ(笑)。
星野:
すごいですね…、ゆるいなあ(笑)。
加藤:
あれは良い夜だったなあ。明け方まで金星さんも歌ってくれて、酩酊して。みんなで海に行って、西表の空が白んでいくのを見たりして。
星野:
それは、面白い旅ですね。行った先で予定が決まっていく旅のことを、専門用語で、「着地型観光」と言います。
加藤:
確かに着地型よね(笑)。
星野:
日本の観光は行く前に予定が決まってて、つまんない場合が多い。出会い頭に旅の内容が決まっていく方が面白いですよね。
加藤:
それは当然ですよね。
星野:
相手が時間通りの場所にいなくても、腹も立たないですし。
加藤:
そういうゆるさは、沖縄の人が持ってる絶対的な価値よね。最初に行った時は、もう30年以上前かな。最初は針のむしろのような空気で、結構ドキドキしてたんだけど、一回仲良くなると、もう親戚みたいに良くしてくれる。
星野:
僕も竹富島で同じ経験をしてます。
加藤:
じっくり、何年も時間をかけて友達になれば、こちらの全てを受け入れてくれる。逆に、効率を考えて付きあってるとダメね。少ない時間の中でも、得な話を聞いて帰ろうって魂胆が見えると、沖縄の人は絶対しゃべらない。あんた、まだ肩に東京が乗ってるよ、なんて言われて、誰も相手にしてくれないのよ。
星野:
ははは(笑)
加藤:
色んな国の色んな場所に行ったけど、戦争の被害が大きかったり不幸が降りかかった土地で、悲しい経験を共有してきた人たちは、厳しいソウルを持っていて、余所者に対してもそっけない厳しい態度を取るんですね。でも、その厳しさの裏には人に対する根本的な優しさがある。生きていくことがどれだけ大変か、骨身に沁みてわかっているからこそ、一旦仲良くなったら放っておけないの。だからこそ、わずらわしさもあるんだけど、それも厳しさであり、優しさよね。

世界遺産と「エコ・ツーリズム」が
結びつかない。
登録後、観光客が減っている知床。

星野:
沖縄以外に、加藤さんが面白いと思われる日本の地域はありますか? 実は、沖縄に負けないくらい独特な文化を持っている地域というか。
加藤:
やっぱりアイヌの人たちがいますよね。私は「知床旅情」を歌ったから、彼らとは否応無しに縁ができました。色んなところを回りました。アイヌの人って、みんな遠い親戚みたいな感じなのね。
 あの辺には集落がいくつかあって、距離はちょっと離れてるんだけど、あちこち回った先の人たちがみんな知り合いだったりする。強烈だったのは、旭川のウタリ村かな。アイヌの人たちの歌を聞かせてもらうためにいったんだけど、80~90歳くらいのおばあちゃんが歌ってくれたんだけど、あれはすごかったですね。興が乗ってきたら、声を出すために入れ歯をがばっと外しちゃうのよ。そのうち、周りの人たちも歌い始めて、自然と合唱になって。腰を悪くして立てなかったおばちゃんまで立ち上がって、声を上げながら踊りだしちゃって。
星野:
催眠術にかかったみたいですね。知床も世界遺産になりましたが、実はそれ以降、むしろ観光客が減っているんですよ。ぜひ、エコ・ツーリズムを浸透させたい場所のひとつなんですが。

星野佳路

加藤:
その話題でいうと、おそろしい話があってね。世界遺産に登録された後、ウトロの港の一部が埋め立てられたんですよ。世界遺産に指定された地域は開発できないから、その手前に、世界遺産センターみたいな名前の、でっかい土産物屋を作っちゃったの。で、その建物を作ったのがなんと環境省。現地で親しくしている人に聞いたら、「埋め立てで、海がコロッと変わってしまった」って。
星野:
観光地の環境を保全しながら、その土地の魅力をアピールしていくという、本来の意味でのエコ・ツーリズムがうまくいっていませんね。
 僕が星野リゾートの社長に就任した頃から始めた「ピッキオ」というエコ・ツーリズムの団体(http://picchio.co.jp/sp/)がありますが、ピッキオ自体の観光収益から、自然を紹介するガイド(インタープリター)の育成費を出せるお金のサイクルを作ることができた、僕の理想のエコ・ツーリズム団体ですね。発足当時は僕もガイドをしてました。
 ピッキオでは、別荘地に現れるクマを駆除せずに追い払ったり、餌付けをしないような仕組みも作り出しました。軽井沢に別荘を建てる人の中には、森の奥深くに別荘を建てたのに、クマが出ることに驚く人が多いんですが(笑)。そういう苦情に市役所が対応して、猟友会の方が出てきてクマを殺してしまい、結果としてクマの数が減ってしまった。かなりまずい事態だったんです。そこで、まず軽井沢に住んでいる24頭(当時)のクマに発信機をつけました。
加藤:
居場所がわかるようにしたんですね。
星野:
そうです。そして、クマが出た時は「ベアドッグ」というクマ対策犬が追い払ったり、捕獲して離す時に人と人里の怖さを教える、などという仕組みを作りました。さらに、クマを追い払うという意味で一番効果があったのは、実は軽井沢のゴミ箱を変えたことなんです。
加藤:
ああ、それは大事ですよね。知床もそう。旅行者が捨てていった生ゴミをヒグマが食べてしまうんですよ。一度人間の食べ残しを食べてしまったクマは、もう野生の餌だけを食べる生活には戻れないみたい。

構成: 森 綾
撮影: 山口宏之