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Blue Bottle Coffee 創業者 ジェームス・フリーマン × 星野リゾート 星野佳路

日本の旅でもインスパイアされました
「オリジナルを追求し、よい味のコーヒーとひとときを」

James Freeman

ジェームス・フリーマン(ブルーボトルコーヒーCEO) 1965年、アメリカ・カリフォルニア州出身。クラリネット奏者だったが、2002年8月、サンフランシスコにある自宅ガレージでコーヒーの販売を始める。 2015年7月現在、アメリカと日本で全21店舗を展開している。

Vol.1 1号店は東京の下町に小工場風の建物。
そこで働く人たちに、平和を感じました

星野

はじめまして。

ジェームス

はじめまして。お声がけありがとうございます。
今回はすごい偶然があったんですよ。
実は前回来日した時に、「星のや京都」に泊まったのです。滞在はとても快適で、秘書に「素晴らしいよ。これを運営している人に会って話をする機会があったらいいなあ。どうやって会社を設立したのか、どう運営しているのか、話を聞いてみたい」と言ったのです。
その話をした4時間後に彼女は星野リゾートから連絡をいただいたんだそうです。びっくりしましたね。

星野

そうだったんですね。それはすてきな偶然です。星野リゾートは100年の歴史があるんです。曽祖父が始めました。私で4代目です。京都の他に現在33カ所で施設運営をしています

ジェームス

それは、全てを訪問したいですね。

星野

ありがとうございます。私はこのブルーボトルコーヒー日本第1号店には、スキーの前に立ち寄った事があるんですよね。私の趣味はスキーでして。年間60日スキーをします。

ジェームス

リゾートの計画を建てるのが、実は趣味なんじゃないですか?(笑)

星野

確かに(笑)。新幹線の時間まで1時間半あったので、こちらにお邪魔して、コーヒーを頂いて、東京駅までタクシーで行きました。

ジェームス

そうでしたか。楽しんで頂けましたか。

今日のコーヒーはアイスでニカラグワ。クリアな味わい。

星野

実によい雰囲気を楽しみました。お聞きしたかったのですが、なぜこちらの場所を選ばれましたか?

ジェームス

それは皆さん、知りたがりますね。

星野

ブルーボトルコーヒーを知っている日本人の誰もが聞きたがる重要なことのひとつだと思います。レアすぎる場所なので。一般的には、青山や新宿を選ぶと思うのですが。

ジェームス

実は日本で育った友人がいて、候補地を探すのに手伝ってもらいました。 この建物はもともと倉庫でした。銀座に1,000フィートの広さの物件は現実的には有り得ないですから、友人に相談しました。
私の希望は、焙煎工場は市街地から遠くない場所に欲しかったのです。友人は清澄白河を「ちょっと古い街で興味深い」と言って、公園などの写真を見せてくれました。その中で「倉庫がいけるかもしれない」とのことで、こちらまで伺ってみて、近所を散歩してどんな感じの雰囲気なのかを見たり、素敵なランチを食べたり、庭園を散歩したりしましたね。街自体もとても気に入りました。
それに小工場風の建物とか工場で働く様とか、それが気に入ったんですよね、なんだか平和な感じがしました。そしてこの建物もとても興味深かったんです。
建築家と2回目のミーテイングをして、この建物をどう魅力的に改装できるか考え、2階から1階が見える吹き抜けを設けました。 まさかこんなに繁盛するとは想像もしなかったです。もともとの想いとしては「場所的に便利だし、他の場所にカフェをオープンしても配達にも便利だ。じゃあ、小売店も入れて、人がやってくるかどうかを試してみよう」というスタートでした。しかしながら、青山同様、いや、それ以上に人が集まるところとなったのです。

星野

この地域ではブルーボトルコーヒーがとても有名になりましたね。

清澄白河の店舗はもともと工場。天井が高く気持ちがいい。エレベーターのあった部分をスケルトンにして、店舗の様子が2階オフィスからも分かる

ジェームス

そうなんですよ。日本の代表は近所の人達と知り合うのにとても努力をしてくれました。
たとえば小さな地図を作って、うちの焙煎所の他に他のコーヒー店やランチが食べれる所、公園を記したりして、この地域の人たちだけでなく、街に訪れる人がより多く関心をもってくれるようにがんばってくれましたね。

星野

以前ここに来た時、多くの人々が建物の写真を撮っていましたね。観光スポットのひとつにすでになっていますよね。

スターバックスの登場で
巨大に育ったコーヒーマーケット。
そこから生まれた意外な市場をすくいあげる

星野

会社を始められたのは何年ですか。

ジェームス

2002年にスタートさせました。フェリー・ビルディングに移動したのが2004年です。

星野

2004年?なるほど。そんなに昔の話ではないですね。

ジェームス

はい、4代目ではありません(笑)。

星野

ある意味。とても急成長されたのですね。

ジェームス

随分と昔の事の様な気がしますがね。

星野

10年ですね。

ジェームス

はい。いろいろラッキーでした。

星野

ジェームスさんは、どうしてコーヒーがビジネスになると思ったのでしょうか?どんなきっかけがあったんですか?

ジェームス

私はもともと音楽をやっていました。だが、クラリネット奏者としてはなんとか生きてはいけるけれど、仕事を選べるほどではなかった。だから、ファーマーズマーケットでコーヒーを淹れる事によってどうにか生計を立てられたらなと思ったのです。たったそれだけのことです。ただの希望でした。

星野

なるほど。

ジェームス

余分なお金は全くもっていませんでした。強固なビジネスプランもありませんでした。サンフランシスコでは、自宅でベーキングシートを使ってコーヒーを焙煎していました。私自身、フレッシュなコーヒーを飲むというのを大事にしていたのですが、焙煎したてのコーヒーを買えなかったんですよ。

星野

なるほど。

ジェームス

それでひらめいたんです。最少の投資でした、自分で何もかもやってね。

星野

競合が多すぎ、スターバックスが多すぎ。そんなことは考えなかったのですね。

ジェームス

それがよかったんです。私には、私がやってはいけないことすら判っていなかったのです(笑)。

星野

でも、多くのビジネス論に反してはいますが、ブルーボトルは拡張し、マーケットを獲得していますよね。それは味の違いが判り、理解しているマーケットがあったからということですか?

ジェームス

はい、スターバックスがそのマーケットを創ってくれました。私には数字はわかりませんが、1,000人に1人、10,000人に1人は、「今飲んでいるコーヒー以外にどんなものがあるのか?」と他のコーヒーに興味を持ちます。「コーヒーについてもっと知りたい」「もっと違うコーヒーも体験してみたい」と味やブランドにこだわる消費者となるのです。スターバックスはそういったマーケットを創り出したのです。だから我々は成功出来たのだと思います。ところが当のスターバックスも、2000万ドルを投資して巨大な焙煎所併設の新しい施設をシアトルに作りました。東京にも1軒作ることが発表されたそうですね。
「Reserve Roastery and Tasting Room」という店舗ですね。

星野

東京にそんな巨大な店を作るのですか? それはどんな店なんでしょう。

ジェームス

階下の焙煎所を見ていただければ判ると思うのですけど、スペシャリティコーヒーの業者がやっていることを見て「我々も同じような事やらなきゃ」と思ったのかもしれません。
そしてシングルオリジンのエスプレッソの提供を始めたり、サイフォンコーヒーやドリップコーヒーも出し始めたりしました。 コーヒーの未来を考えるというより、私や私のコーヒー仲間達がやってきたことに追いつこうとしています。それは一朝一夕には出来ない事です。ですから、東京でどうなるのかがとても興味深いですが、いづれにしても我々の揺るぎない思いを再認識させるような事になると思います。

星野

面白いですね。ビジネス論の一つに「もしあなたが自分の事をニッチだと思うのならばニッチのマーケットが成長している。だから自分が成長していて成長が早すぎる場合には、その市場のリーダーは同じビジネスを展開すべきだ」というのがあるんです。
もしかしたらそれを辿っているのかもしれませんが、いずれにしてもアプローチとしてスターバックスの行動は興味深いですね。

ジェームス

スターバックスは現在23,000店舗を持っているのですが、そこから生まれ出る「よりよい物、他に興味を持つ人」を受け入れるだけでも、もの凄い数なんですよ。

星野

ブルーボトルコーヒーは、何店舗ありますか?

ジェームス

アメリカに合計21店舗、東京に2店舗です。

星野

ほとんどが西海岸にあるのですか?

ジェームス

サンフランシスコ、ロスアンゼルス、ニューヨークに7店舗、東京に2店舗あります。だから年内中に10店舗を、来年中にオープンさせる予定です。

Vol.2 日本の「喫茶店」教えてくれた、
体験すべてを提供するということ

星野

何かで読んだのですが、ジェームスさんは日本を旅している時に喫茶店を経験され、それにインスパイアされたとか。今、喫茶店はほとんど無くなってしまいましたが、東京に住んでいた大学生だった時、同じ経験をしました。とても特別な体験ですよね。

ジェームス

はい、コーヒーの良い出来映え、価値が判ること。きめ細やかな部分の完成度が判ること。それらすべて、喫茶店で学びました。

星野

各オーナーが、それぞれコーヒーをとても愛していますからね。

ジェームス

しかし、それぞれのオーナーの考えがまるで違いますね。

星野

そうですね。こだわりのオーナーは、時には私みたいな若い学生には厳しくてね。

ジェームス

ちょっと険しい顔をして(笑)

星野

オーナー達はフレンドリーではなかったですね。その時点ではおかしな商売だなーって思っていました。

ジェームス

数が減ってしまったのは悲しいですが、残ったお店には頑張って欲しいですよね。日本ではコーヒーの楽しみ方がたくさんあります。喫茶店を通じて、食べ物の歴史を再発見したりすることもあります。

星野

日本での経験がジェームスさんに本当に影響があったというのを聞いて嬉しいです。

ジェームス

勉強中です。全くの成長過程ですけどね。

この日用意してくれたのは手作りのショートブレッド、サフラン、バニラ、シュガーヌードル、ジンジャー、チョコレート、オリーブオイルなど様々なフレーバー

星野

自分のコーヒーをどう定義づけますか?アメリカで手に入る他のコーヒーとどう異なりますか?

ジェームス

味のバラエティーが売りだと思っています。1点だけにこだわりすぎることはしません。他のコーヒー焙煎屋はとてもライトロースト、しかもシングルオリジンに拘ったりします。私はよりライトな焙煎、そしてミディアムに近いものも好きです。さまざまな味をブルーボトルコーヒーで体験をしていただき、スペシャルな気分を味わって欲しいとも思います。さらに、コーヒーのみならず、体験そのものを提供したい。
それから、人々がコーヒーと一緒に食べるものもオリジナルで作りたいと思っています。質が良く、綺麗で、美しく、ほとんどがオーガニック認定を受けた良質な原材料で。北海道産の美味しい牛乳、オーガニックの砂糖、工房で焼く自家製パン。すべてを合わせてこの美味しい飲み物とともに提供する事を考えたいですね。

星野

ブルーボトルは、エスプレッソやカプチーノよりも、ドリップ式のコーヒーに力を入れていますね。

ジェームス

日本では、カリフォルニアに比べてドリップ式コーヒーやアイスコーヒーが本当に愛されていると感じるからです。カフェラテやカプチーノなども我々にとって全て大事です。でも、日本では、人々が我々を導いてくれています。ドリップ式が欲しいと言われ、作業台を増やしたり、熱湯タワーを増やしたり、要求に応えられるように整えました。

星野

ジェームスさんが旅をしていた時に喫茶店にて経験したのはドリップ式のコーヒーですよね?

ジェームス

はい、常に。

星野

当時は、そうだったでしょうね。日本で体験した事だったのだろうなと思いました。私のイメージとしてはまずはドリップ式のコーヒーに力をいれて、エスプレッソタイプに力を入れているスターバックスやその他のコーヒー店があるので、そちらは後に力を入れて行くのかなぁと思っていました。

ジェームス

そうですね。今、日本の他のコーヒーショップではブラックコーヒーを注文したら、既にドリップしたコーヒーをサーバーからから入れてもらうだけです。私はそれも改善したいんです。ブラックコーヒーを美味しく提供する最善の方法ではありませんから。

星野

デモンストレーションはとても大事ですよね。

ジェームス

はい。デモンストレーションやプレゼンテーションも大事ですが、やはり味です。風味こそが大事です。サンフランシスコ・オークランドに品質管理のための部屋があるのですが、そこで私は年中ブラインドテストを行っています。温度の違いやダブルブレンドなども、必ずすぐ判ります。

星野

つまり味に差が必ずあるんですか。

ジェームス

はい、私はそう思います。大きく差が出るのはコーヒーの提供の仕方によってだと思います。

星野

なるほど、ちゃんとひと手間かけることに、まさることはないですね。
面白いですよね、本当に。Blue Bottle Coffeeが日本に来てくれてうれしいです。

ジェームス

私もです。こちらで良いチームが作れました。私は本当に幸運この上ないと思っています。

フリーマンさんの奥様キャサリンさんはパティシエ。彼女が考案したフードやお菓子がショップには並ぶ。著書の『MODERN ART DESSERT』にはアートなお菓子がたくさん

Vol.3 「星のや京都」に泊まってから
聞きたかったことがあります。
スタッフの育成はどうやって?

星野

ところで、「星のや京都」はいかがでしたか?

ジェームス

とても特別な体験でした。私には息子がいるんですが、彼の初めての日本訪問でした。たくさんの仕事をする為に来日したのですが、京都に行く数日を作り、京都の事を読んで小旅行に行きました。小舟の旅がとても楽しくて、人々が凄く親切で、私の息子は未だにそれについて話をします。
写真がありますよ。これは「星のや京都」ですよ。

星野

京都のスタッフがコーヒーを入れているところですね。。

ジェームス

そして、コーヒーをいれてくれている彼のもう1枚の写真を見てください。我々が朝、館内を散歩をしていて彼に会ったのですが、それはそれはうれしそうな顔をしてくれたんですよ。これをアメリカのスタッフに見せるんです。これがおもてなしの顔だよって。

春に「星のや京都」に滞在した時のスナップを見せるフリーマンさん。

星野

それは嬉しいですね。
京都には、未だに昔からのビルがたくさん残っていますよね。それはブルーボトルコーヒーのコンセプトの空間にあてはめることが出来るのではないかと私は思っています。

ジェームス

確かにとてもマッチしそうです。それに、京都は人がたくさんいて活気があります。
お聞きしてもいいですか? 「星のや京都」を訪問した時に私と家族が気づいた事があったのですが、みんなの英語が完璧だったことと、もてなしの体験が事前に準備されつくされた感じではなく、本当に暖かみがあって誠実でかつミスが無いんです。
どうやって人々を訓練し、例えば新入社員にはどういったトレーニングをしているのですか。

星野

基本のスキルはとても大事です。基本のスキルは明確にして、それは覚えてもらいますが、量的にはそれほどではありません。
それよりも大事なのが、彼らに組織の中で自由を与えて、おもてなしをするためにどう動きやすくするかを考えることをすすめます。とてもフラットな組織を作るようにしていて、そこのなかで従業員は自由にディスカッションをしたり、自分の意見を述べたり、運営の変更を出来る様にしています。同時に決定事項を決める過程に関わっていて、それぞれの施設のビジョンや目的を共有します。
もしもお客さまにとって良い事であれば、新しいコンセプトやサービスのアイディアを提供する事も出来ます。そうして権限と自由を与える事によって、誰もが自発的になれるのです。
スタッフは地元を愛する人たちが多いですから、京都や日本文化に対して興味があって知識もある人たちが働いています。京都や嵐山についてより勉強を深めたり、ゲストの楽しみにのために新しく何をしてあげられるだろうかなどを考えたりします。
なので、私は現場で働く人たちの「ゲストを満足させたい、楽しませたい」という意欲に任せるところが大きく、そのために自由を与え、また我々の持つ資金を使っていくことを良しとしています。

2015年春に偶然「星のや京都」に滞在してくださったフリーマンさん一家。スタッフの栗原が出す、焼きたてのおかきにも細やかなホスピタリティを感じたと言ってくださり星野も喜ぶ

ジェームス

それはいいですね。時によってはお金がかかるものです。

星野

お金はかかりますが、運営に変更を加える事を本当に推奨しているのです。基本的な考えはそんなところです。
日本におけるリゾート運営の難しさは、人材の確保です。やはり東京と大阪に集中しています。地方でよい人材を探し、雇い、維持するのが本当に難しいです。だから仕事の時間は楽しい時間でなければなりません。勤務時間はスタッフにとって興味深く、楽しめるようにするのが、よい人材育成の秘訣だと思います。

ジェームス

なるほど、それは私も気付いたところがあります。
船に乗る前の待合の建物でなんですが、我々が入室したら女性スタッフが声をかけてくれ、彼女はもう我々の名前を判っていて、とてもいい気分にさせてくれ、小さなお湯のみで生姜茶を出してくれ、とにかく可能なタイミングの限り、皆が我々に注目をしてくれて、小さなミスすらなかった。それって難しい事なのですよ。だから尚更、どうやってこういう人達を探したんだろうと思ったんです。

星野

探すのも大変だけど、もっと大変なのが彼らのやる気を維持することです。だから仕事そのものが楽しめるように工夫しています。
なので、基本スキルを持つ良い人材と出会ったら、業務の変更や参加の自由を与えるのが人材を維持するポイントだと思いますね。

ジェームス

そうですか、ありがとうございます。

星野

日本では採用も難しいです。多くの会社が良い人材を求めています。日本では「良い人材」が不足しているんですよ。

ジェームス

どこで採用するのですか。

星野

大学や短大の新卒者を優先して採用するようにしています。彼らはまだフレッシュな気持ちも強く、意欲もある、とても柔軟性があるので、ユニークといわれる我々の組織にとけ込みやすいのです。 星野リゾートの組織文化は、日本でもユニークです。フラットな文化を作り上げてきました。50歳も25歳も基本同じで、同じトピックについて意見を自由に交わす事が出来るようにするための組織です。それが我々が維持したい文化なのです。

ジェームス

私の知るところでは、それは日本の会社ではとても珍しい事なのではないですか。一般的には年功序列というものですよね?

星野

はい。しかし年功序列では、優秀な若い人材をキープする事は難しいですね。彼らにもっと責任を持ってもらい、仕事がよりチャレンジに満ちるようにと推奨しています。チャレンジというのは楽しいですからね。

ジェームス

もちろんもちろん。面白いですね。

星野

マネージメント職のポジションが空いた時にも、基本的には口を出しません。従業員に公募を出し、選定の過程に参加してもらいます。「私がやりたい」という希望を出してもらい、もし5人の人がやりたいといったら、5つのプレゼンを聞いて、従業員が新しいマネージャーの選定に参加します。

ジェームス

それはいいですね。

星野

私が思うに、「完璧なマネージャー」はいないのです。だから上司の足らない部分を探し始めたら、至らない部分だらけなんですよ。上司への批判というのは簡単なのです。

ジェームス

では上司を「自分が選んだとしたら」とするわけですね。

星野

そうなんです。その足らない部分を部下である人たちがカバーする努力をする。よって、彼らが選ぶのは、「よりよい人」なんです。

ですからお互いを批判し合うのではなく、お互いをカバーし、助け合うチームを作るのが重要です。仮に私自身が若いマネージャーを選定し、彼の成長を期待したとしたら、それが問題の始まりです。私の選定に従業員達は同意せず、彼のミスを常に指摘する。負のスパイラルが始まります。ミスは皆犯すものであって、同じミスでも負のチームでは、さらに問題になるのです。

ジェームス

それは良いですね。興味深いです。

新しいことをやり続ける。
体感したかけがえのない経験を大事に

星野

良いチーム作りというのは、日本の地方での小さな施設では本当に重要だと思っています。

ジェームス

あなたの施設はほとんど地方にあるんですよね?

星野

はい。やっと2016年に東京に「星のや東京」オープンさせますが。

ジェームス

おめでとうございます。いつか泊まりたいです。

星野

こちらが東京です。大手町エリアでの大きな土地のひとつで、金融街ですね。そこに和風の旅館をオープンさせます。

ジェームス

素晴らしい。

星野

だから浴衣を着て、金融街をぶらつくことがこのホテルからは出来ます。あと富士山の近くにも1件「星のや富士」をオープンさせます。

ジェームス

美しいですね、これはいつオープンですか?

星野

こちらは今秋2015年10月30日ですね。

ジェームス

おめでとうございます。

星野

私の夢は、サンフランシスコに和風旅館をオープンさせることなんです。

ジェームス

いいですね! サンフランシスコには、とても高くて伝統的なホテルが数件あるのみで、人が来てサンフランシスコではどこに泊まれば良いのか聞かれても、心からお勧めできる興味深いホテルがないんですよね。

星野

日本ならではの特徴的な和風旅館がサンフランシスコで運営出来ないかと考えているのです。アメリカ人はトヨタの車を運転し、食事に寿司を食べているんだから、宿泊先としても「日本の旅館」カテゴリーが選択肢として存在しても良いはずだと考えています。

ジェームス

星野さんはご存知かと思いますが、サンフランシスコのジャパンタウンは全然面白くありません。日本文化が何なのかをちゃんと理解していないと思うので、それは興味深く思います。和風旅館ができたら、泊まってみたいです。

星野

ジェームスさんが東京で「喫茶店」をオープンさせている事実は、私のサンフランシスコで旅館をオープンさせるという夢に、随分勇気を与えてくれていますよ。ブルーボトルコーヒーの店舗も、日本にもっと出す予定ですか?

ジェームス

はい。今真剣に考えているのは東京にもう数店舗と考えています。うまくいくことを望んでいます。どうなるでしょうか、東京って本当に大きいですから。
我々はまだこの清澄白河と青山の2店舗しかありません。さらに拡大する行動に出る前に、東京できちんと店舗運営をした方がいいのではと考えています。この店舗では1階で焙煎したての新鮮な豆でコーヒーを入れることができますが、フレッシュさを追求すると、焙煎所をもうひとつオープンさせるか、トラックで運ぶか。難しいところです。

星野

こちらの焙煎所の大きさは?

ジェームス

約180㎡でしょうか。

星野

この工場からだと、あと何店舗配達が出来ますか?

ジェームス

計画当初は20店舗いけると思っていました。こんなに忙しくなると思ってませんでしたので(笑)。今のペースだと、あと6か7店舗でしょうか?

星野

ブルーボトルコーヒーは日本では突然有名になって、次なるチャレンジはこの勢いを維持出来るかということになりますね。日本の人々は新しい事が大好きなので。

ジェームス

そうですね。

星野

あなたのストーリーは日本人マーケットにとってパーフェクトで、みんながそれを今まさに体験したがっている訳ですが、飽きるのも早いし、常に創造し続けなくてはならないと思いますね。

ジェームス

我々のチームの共同作業というのは凄く面白い事になると思います。 新しい事はやり続けなくてはいけないというのは頭にあります。というのも星野さんは私よりもよくご承知だと思いますが、人々の体感した経験というのは代え難いことなんです。

星野

そういう意味合いにおいても、私の考えでは、最初の小売店は東京以外の場所で開業するのがいいと思いますね。
東京以外にとても面白い場所が沢山あるのでね。東京は大きな都市ですが、もっと日本らしい良い場所が沢山あります。

ジェームス

東京は本当に洗練されていますからね。

星野

提供するコーヒーの味は大事ですが、提供する空間はもっと大事だと私は思います。

ジェームス

それは大事です。あとおもてなしの心も、ね。

星野

今日はありがとうございました。次回は、軽井沢にも泊まりにいらしてください。丸山珈琲の人たちをご紹介したいです。

構成: 森 綾 撮影: 萩庭桂太

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