Vol.3「星のや京都」に泊まってから
聞きたかったことがあります。
スタッフの育成はどうやって?

星野:
ところで、「星のや京都」はいかがでしたか?
ジェームス:
とても特別な体験でした。私には息子がいるんですが、彼の初めての日本訪問でした。たくさんの仕事をする為に来日したのですが、京都に行く数日を作り、京都の事を読んで小旅行に行きました。小舟の旅がとても楽しくて、人々が凄く親切で、私の息子は未だにそれについて話をします。
写真がありますよ。これは「星のや京都」ですよ。
星野:
京都のスタッフがコーヒーを入れているところですね。
ジェームス:
そして、コーヒーをいれてくれている彼のもう1枚の写真を見てください。我々が朝、館内を散歩をしていて彼に会ったのですが、それはそれはうれしそうな顔をしてくれたんですよ。これをアメリカのスタッフに見せるんです。これがおもてなしの顔だよって。

春に「星のや京都」に滞在した時のスナップを見せるフリーマンさん。春に「星のや京都」に滞在した時のスナップを見せるフリーマンさん。

星野:
それは嬉しいですね。
京都には、未だに昔からのビルがたくさん残っていますよね。それはブルーボトルコーヒーのコンセプトの空間にあてはめることが出来るのではないかと私は思っています。
ジェームス:
確かにとてもマッチしそうです。それに、京都は人がたくさんいて活気があります。
お聞きしてもいいですか? 「星のや京都」を訪問した時に私と家族が気づいた事があったのですが、みんなの英語が完璧だったことと、もてなしの体験が事前に準備されつくされた感じではなく、本当に暖かみがあって誠実でかつミスが無いんです。
どうやって人々を訓練し、例えば新入社員にはどういったトレーニングをしているのですか。
星野:
基本のスキルはとても大事です。基本のスキルは明確にして、それは覚えてもらいますが、量的にはそれほどではありません。
それよりも大事なのが、彼らに組織の中で自由を与えて、おもてなしをするためにどう動きやすくするかを考えることをすすめます。とてもフラットな組織を作るようにしていて、そこのなかで従業員は自由にディスカッションをしたり、自分の意見を述べたり、運営の変更を出来る様にしています。同時に決定事項を決める過程に関わっていて、それぞれの施設のビジョンや目的を共有します。
もしもお客さまにとって良い事であれば、新しいコンセプトやサービスのアイディアを提供する事も出来ます。そうして権限と自由を与える事によって、誰もが自発的になれるのです。
スタッフは地元を愛する人たちが多いですから、京都や日本文化に対して興味があって知識もある人たちが働いています。京都や嵐山についてより勉強を深めたり、ゲストの楽しみにのために新しく何をしてあげられるだろうかなどを考えたりします。
なので、私は現場で働く人たちの「ゲストを満足させたい、楽しませたい」という意欲に任せるところが大きく、そのために自由を与え、また我々の持つ資金を使っていくことを良しとしています。

2015年春に偶然「星のや京都」に滞在してくださったフリーマンさん一家。スタッフの栗原が出す、焼きたてのおかきにも細やかなホスピタリティを感じたと言ってくださり星野も喜ぶ2015年春に偶然「星のや京都」に滞在してくださったフリーマンさん一家。スタッフの栗原が出す、焼きたてのおかきにも細やかなホスピタリティを感じたと言ってくださり星野も喜ぶ

ジェームス:
それはいいですね。時によってはお金がかかるものです。
星野:
お金はかかりますが、運営に変更を加える事を本当に推奨しているのです。基本的な考えはそんなところです。
日本におけるリゾート運営の難しさは、人材の確保です。やはり東京と大阪に集中しています。地方でよい人材を探し、雇い、維持するのが本当に難しいです。だから仕事の時間は楽しい時間でなければなりません。勤務時間はスタッフにとって興味深く、楽しめるようにするのが、よい人材育成の秘訣だと思います。
ジェームス:
なるほど、それは私も気付いたところがあります。
船に乗る前の待合の建物でなんですが、我々が入室したら女性スタッフが声をかけてくれ、彼女はもう我々の名前を判っていて、とてもいい気分にさせてくれ、小さなお湯のみで生姜茶を出してくれ、とにかく可能なタイミングの限り、皆が我々に注目をしてくれて、小さなミスすらなかった。それって難しい事なのですよ。だから尚更、どうやってこういう人達を探したんだろうと思ったんです。

星野:
探すのも大変だけど、もっと大変なのが彼らのやる気を維持することです。だから仕事そのものが楽しめるように工夫しています。
なので、基本スキルを持つ良い人材と出会ったら、業務の変更や参加の自由を与えるのが人材を維持するポイントだと思いますね。
ジェームス:
そうですか、ありがとうございます。
星野:
日本では採用も難しいです。多くの会社が良い人材を求めています。日本では「良い人材」が不足しているんですよ。
ジェームス:
どこで採用するのですか。
星野:
大学や短大の新卒者を優先して採用するようにしています。彼らはまだフレッシュな気持ちも強く、意欲もある、とても柔軟性があるので、ユニークといわれる我々の組織にとけ込みやすいのです。
星野リゾートの組織文化は、日本でもユニークです。フラットな文化を作り上げてきました。50歳も25歳も基本同じで、同じトピックについて意見を自由に交わす事が出来るようにするための組織です。それが我々が維持したい文化なのです。
ジェームス:
私の知るところでは、それは日本の会社ではとても珍しい事なのではないですか。一般的には年功序列というものですよね?
星野:
はい。しかし年功序列では、優秀な若い人材をキープする事は難しいですね。彼らにもっと責任を持ってもらい、仕事がよりチャレンジに満ちるようにと推奨しています。チャレンジというのは楽しいですからね。
ジェームス:
もちろんもちろん。面白いですね。
星野:
マネージメント職のポジションが空いた時にも、基本的には口を出しません。従業員に公募を出し、選定の過程に参加してもらいます。「私がやりたい」という希望を出してもらい、もし5人の人がやりたいといったら、5つのプレゼンを聞いて、従業員が新しいマネージャーの選定に参加します。
ジェームス:
それはいいですね。
星野:
私が思うに、「完璧なマネージャー」はいないのです。だから上司の足らない部分を探し始めたら、至らない部分だらけなんですよ。上司への批判というのは簡単なのです。
ジェームス:
では上司を「自分が選んだとしたら」とするわけですね。
星野:
そうなんです。その足らない部分を部下である人たちがカバーする努力をする。よって、彼らが選ぶのは、「よりよい人」なんです。
星野:
ですからお互いを批判し合うのではなく、お互いをカバーし、助け合うチームを作るのが重要です。仮に私自身が若いマネージャーを選定し、彼の成長を期待したとしたら、それが問題の始まりです。私の選定に従業員達は同意せず、彼のミスを常に指摘する。負のスパイラルが始まります。ミスは皆犯すものであって、同じミスでも負のチームでは、さらに問題になるのです。
ジェームス:
それは良いですね。興味深いです。

新しいことをやり続ける。
体感したかけがえのない経験を大事に

星野:
良いチーム作りというのは、日本の地方での小さな施設では本当に重要だと思っています。
ジェームス:
あなたの施設はほとんど地方にあるんですよね?
星野:
はい。やっと2016年に東京に「星のや東京」オープンさせますが。
ジェームス:
おめでとうございます。いつか泊まりたいです。
星野:
こちらが東京です。大手町エリアでの大きな土地のひとつで、金融街ですね。そこに和風の旅館をオープンさせます。
ジェームス:
素晴らしい。
星野:
だから浴衣を着て、金融街をぶらつくことがこのホテルからは出来ます。あと富士山の近くにも1件「星のや富士」をオープンさせます。

新しいことをやり続ける。体感したかけがえのない経験を大事に

ジェームス:
美しいですね、これはいつオープンですか?
星野:
こちらは今秋2015年10月30日ですね。
ジェームス:
おめでとうございます。
星野:
私の夢は、サンフランシスコに和風旅館をオープンさせることなんです。
ジェームス:
いいですね! サンフランシスコには、とても高くて伝統的なホテルが数件あるのみで、人が来てサンフランシスコではどこに泊まれば良いのか聞かれても、心からお勧めできる興味深いホテルがないんですよね。

星野:
日本ならではの特徴的な和風旅館がサンフランシスコで運営出来ないかと考えているのです。アメリカ人はトヨタの車を運転し、食事に寿司を食べているんだから、宿泊先としても「日本の旅館」カテゴリーが選択肢として存在しても良いはずだと考えています。
ジェームス:
星野さんはご存知かと思いますが、サンフランシスコのジャパンタウンは全然面白くありません。日本文化が何なのかをちゃんと理解していないと思うので、それは興味深く思います。和風旅館ができたら、泊まってみたいです。
星野:
ジェームスさんが東京で「喫茶店」をオープンさせている事実は、私のサンフランシスコで旅館をオープンさせるという夢に、随分勇気を与えてくれていますよ。ブルーボトルコーヒーの店舗も、日本にもっと出す予定ですか?
ジェームス:
はい。今真剣に考えているのは東京にもう数店舗と考えています。うまくいくことを望んでいます。どうなるでしょうか、東京って本当に大きいですから。
我々はまだこの清澄白河と青山の2店舗しかありません。さらに拡大する行動に出る前に、東京できちんと店舗運営をした方がいいのではと考えています。この店舗では1階で焙煎したての新鮮な豆でコーヒーを入れることができますが、フレッシュさを追求すると、焙煎所をもうひとつオープンさせるか、トラックで運ぶか。難しいところです。
星野:
こちらの焙煎所の大きさは?
ジェームス:
約180㎡でしょうか。
星野:
この工場からだと、あと何店舗配達が出来ますか?
ジェームス:
計画当初は20店舗いけると思っていました。こんなに忙しくなると思ってませんでしたので(笑)。今のペースだと、あと6か7店舗でしょうか?
星野:
ブルーボトルコーヒーは日本では突然有名になって、次なるチャレンジはこの勢いを維持出来るかということになりますね。日本の人々は新しい事が大好きなので。
ジェームス:
そうですね。
星野:
あなたのストーリーは日本人マーケットにとってパーフェクトで、みんながそれを今まさに体験したがっている訳ですが、飽きるのも早いし、常に創造し続けなくてはならないと思いますね。
ジェームス:
我々のチームの共同作業というのは凄く面白い事になると思います。
新しい事はやり続けなくてはいけないというのは頭にあります。というのも星野さんは私よりもよくご承知だと思いますが、人々の体感した経験というのは代え難いことなんです。
星野:
そういう意味合いにおいても、私の考えでは、最初の小売店は東京以外の場所で開業するのがいいと思いますね。
東京以外にとても面白い場所が沢山あるのでね。東京は大きな都市ですが、もっと日本らしい良い場所が沢山あります。
ジェームス:
東京は本当に洗練されていますからね。
星野:
提供するコーヒーの味は大事ですが、提供する空間はもっと大事だと私は思います。
ジェームス:
それは大事です。あとおもてなしの心も、ね。
星野:
今日はありがとうございました。次回は、軽井沢にも泊まりにいらしてください。丸山珈琲の人たちをご紹介したいです。

新しいことをやり続ける。体感したかけがえのない経験を大事に

構成: 森 綾
撮影: 萩庭桂太