×

share:

follow us:

  • facebook

星野リゾートを支える人たちの手しごと VOLUME 4 界 加賀 水引作家 廣瀬由利子さん星野リゾートを支える人たちの手しごと VOLUME 4 界 加賀 水引作家 廣瀬由利子さん

旅の魅力はその地域にあり
星野リゾートの施設の「個性」を担うのは、その土地を象徴するプロフェッショナル、職人さんや生産者さんの存在です。
彼らの仕事や目指すもの、発信力に着目し、日本各地の未知なる旅へとアプローチします。
文・さとうあきこ

無限のアレンジで、日常も華やぐ「水引細工」無限のアレンジで、日常も華やぐ「水引細工」

廣瀬由利子さん

金沢を代表する伝統工芸のひとつに「水引細工」があります。結納品や金封などのお祝いごとに欠かせない伝統的な水引をベースに、独自のエッセンスを加えた作品で注目されているのが金沢の「自遊花人」代表・廣瀬由利子さん。目指すは『日常的に楽しめる水引』。人と人とを結ぶ「水引」にこめられた日本の心を大切に、女性らしいしなやかで自由な発想が魅力です。石川県発・オリジナルカラーの水引の開発、建築分野への進出など、新たなチャレンジでも話題です。

    

和紙の紐が織りなす伝統工芸

宮中への贈答物の包装の帯紐として、中国から伝わったといわれる「水引」。その後、結びのかたちを発展させ、鶴亀や松竹梅などの立体的な細工ものまで、日本独自の変容を成してきました。古来「結ぶ」という行為には、約束や契りの成就、健康長寿への祈願、魔除けなどの大切な意味がありました。日本人ならではの繊細な感性によって、慶事、弔事など用途に応じて結び方を変え、四季のお飾りや贈答品などにも美しい形が生み出され受け継がれてきたのです。

異国の地での大きな出会い

金沢生まれの廣瀬さんが「水引」を意識して手にしたのは16年ほど前、お母さまと訪ねたニュージーランドでのこと。「文化交流の一環として、現地の人に水引細工を教えることになり、母から初めて水引を習ったんです」。なんとか基本の『あわじ結び』を習得し、ラッピングにかける水引結びのデザインも考えて、教えたところ、これが大好評。「彼らは細い糸が作りだす造形美に夢中になり楽しんでくれました。そして2日間のワークショップの後に、参加者のひとりが自分で作ったナフキンリングを見せてくれて、びっくり!」。その柔軟な発想から、廣瀬さんは水引の可能性を直感しました。

「結び」が生む
無限のアレンジ、自由な発想

帰国後、独学でひたすら水引を作り続けた廣瀬さん。最初は小さな「珠結び」を数多く同じように作る練習。そして慶事全般に使われる伝統的な「あわじ結び」を美しく仕上げる繰り返しです。日々手にしていくうちに、和紙の細い糸だけで結ぶ水引の意外な特長や持ち味にも魅せられます。「水引は繊細でありながら、きれいに結ぶことで強度も増し水にも強い。ボリユーム感を出しても軽いので、アクセサリーやバッグなどにも応用できます。特にあわじ結びは、連結や曲げることで無限にアレンジできることがわかり、今度は私が夢中でした(笑)」。黙々と指で糸を操る廣瀬さん。編み物のように次々と水引結びがあらわれ、まるで魔法のよう。

アクセサリーや小物などが評判をよび、さらにスキルアップした作品で、石川県デザイン展や金沢市工芸展で受賞を重ね、2011年には金沢市内にギャラリーもオープン。水引で刺繍のように模様を作る独自の手法「刺し水引」(特許取得)も編み出しました。「私の場合、独学なので自由にできる。タブーがないのが強みです」と廣瀬さん。星野リゾート 界 加賀の館内を彩るオブジェの製作も躍進のひとつ。特にロビー吹き抜けの7mにおよぶ作品は圧巻。あわじ結びで作られた約2500個もの水引珠が、光と影を纏い降り注ぎます。「日本文化を伝える旅館という空間で、今までにない使い方、飾り方を模索した貴重な体験でした」。

日常も華やぐ、
受け継がれる工芸へ

「自遊花人」の水引の大きな魅力は、豊富な色のバリエーションにあります。石川県内の繊維メーカーと開発した新しい糸の数は133色!「このオリジナルの糸を導入することで、温かみのある白、クールな白といった繊細な色の表現や、グラデーションを描く作品も作りやすくなりました」。さらに1本の長さが約200m(水引の規格品は約90cm)もあるので、作品サイズや用途にあわせて切って使用でき、自由度も高いのです。大きな作品になると、2500mもの糸が必要になるのだとか! 「今後は、照明やインテリア、壁や床などの内装材としての品質やデザイン性を高め、日常の暮らしの中で生きる水引を展開したい。永く受け継がれていくためには、身近な伝統工芸も大切だと思っています」。

「あわじ結び」の作品ができるまで

私の愛用品

美しい仕上げのための「3種の道具」

廣瀬さんの作品のクオリティの高さは、基本の水引結びの目や輪ひとつひとつの完成度、美しさによるもの。その作業で手離せないのが「はさみ」と「たたみ針」、「スケール」。刃先が細く鋭いはさみは、クラフト専用で切れ味も抜群。何本もの糸をラクに美しく切りそろえる必需品です。細かい結び目をあわせたり、均等に隙間を作るため廣瀬さんの手先となって活躍するのがたたみ針。糸を巻きつけたり珠を作る時にも使います。一見アクセサリーのような鎖の付いたスケールは、あわじ結びの寸法、小さな輪や辺も測れるすぐれもの。「使いやすいサイズのものが欲しくて、知り合いの金工作家さんに作ってもらいました。首からさげて使えるので行方不明にもなりません」。

界 加賀で楽しむ
加賀水引

建築、器、工芸など、界 加賀の前身である「白銀屋」の時代から守り伝えてきた加賀地方の伝統。界 加賀はその復元と新しい表現のため、各分野の第一線で活躍する方々から素晴らしいご協力を得て、2015年12月10日オープンしました。

そんな界 加賀では、施設内の様々な場所で加賀水引に触れることができます。ご到着時にフロントホールで出会う優雅なオブジェにはじまり、客室の障子や置物などにもさりげなくあしらい、上品なかがやきを放ちます。

ロビー

館内に入ると、伝統建築「枠の内(わくのうち)」に飾られるのは加賀水引のオブジェ「光降る」。金沢の牡丹雪をイメージした壮大かつ美しい作品が皆様をお出迎えします。加賀水引に導かれて、優雅な時間のはじまりです。

ご当地部屋

「界」では、滞在全体を通してご当地の魅力に触れていただくため、その地域で活躍する伝統工芸の作家とコラボレーションした「ご当地部屋」をご用意しています。

界 加賀は全48室すべてが「加賀伝統工芸の間」。ローベッドとソファを配置した快適空間に、加賀友禅や九谷焼など加賀の伝統工芸が彩りを添えます。障子には、紅殻、藍、古代紫など加賀の伝統色を取り入れた加賀水引をあしらっています。

ショップ

加賀・金沢の銘菓や伝統工芸品などが多数揃うショップ。加賀水引の小物やアクセサリーも販売しています。お祝い事だけでなくふだん使いにも適した、センスの光るお土産としてぜひご利用ください。

界 加賀

新しい感性が息づく加賀伝統の温泉宿。
歴史ある加賀伝統建築部分に息吹を与え、新たに客室棟を備えた温泉旅館としてリニューアルオープン。九谷焼、加賀友禅、加賀水引などをモチーフにした設えが、滞在を鮮やかに彩ります。

https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaikaga/