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星野リゾートを支える人たちの手しごと VOLUME 7 星のや京都 照明器具の金物職人 三浦晃嗣さん星野リゾートを支える人たちの手しごと VOLUME 7 星のや京都 照明器具の金物職人 三浦晃嗣さん

旅の魅力はその地域にあり
星野リゾートの施設の「個性」を担うのは、その土地を象徴するプロフェッショナル、職人さんや生産者さんの存在です。
彼らの仕事や目指すもの、発信力に着目し、日本各地の未知なる旅へとアプローチします。
文・さとうあきこ

空間を演出する名脇役 京のあかりは、細やかな手わざの結集
空間を演出する名脇役 京のあかりは、細やかな手わざの結集

三浦晃嗣さん

上質な宿やホテルに足を踏み入れる時に感じる、優雅で落ち着いた雰囲気。それは、日常とは異なる「光と影」の妙、照明の効果によるところも大きいのです。創業120年になる京都・三浦照明は、空間に安らぎと寛ぎを演出する和の照明器具の専門店。4代目三浦太輔さんの実弟、三浦晃嗣さんは、手作りのあかり作りを受け継ぐ職人のひとり。サラリーマンから転身して10年ほど、ベテランの金物職人に師事し磨き上げてきた技術が、さまざまな空間と時間を彩ります。

    

古都に灯るあかりの
歴史とともに

関西圏を中心に全国に顧客を持つ、京都・祇園の「三浦照明」。和のあかりの映える土地柄から、料理屋さんや旅館などの特注の照明器具の製造も多く手がけています。「三浦照明」の歴史は、初代三浦大二郎が、琵琶湖疎水工事に関わったことから始まりました。今から130年近く前の明治23年(1890年)、大津~京都を結ぶ琵琶湖疎水が完成し、翌年には日本初の水力発電所「蹴上発電所」が始動し、京都の町に電気のあかりが灯るようになりました。物資に恵まれない時代、電気工事業とともに、家電製品や照明器具を製造し販売。近年は、和風照明器具の製造や販売に特化し、職人による手作りへのこだわりは、今も変わらず受け継がれています。

パーツから手作りする
あかりの製作

ひと口に照明器具と言っても、内蔵される光源の種類、使用場所や用途などにより、実にさまざまな種類があります。その製造工程は、デザインから図面をおこし、パーツの製作、組み立て、検品という流れが一般的。「三浦照明」では、デザインと素材を決定後、それぞれのパーツを専門職人が手作業で製作していきます。照明の骨格を成す素材には、真鍮、銅や鉄、ガラス、さらには秋田杉や白竹といった自然素材も使われます。三浦晃嗣さんは、照明の要となる枠から手作りする金物職人のひとり。工房では、素材の切断から始まり、曲げ加工、穴あけ、溶接といった板金作業に従事します。手動の機械加工はもとより、あらゆる工程で、手作業の高度なスキルが求められるのです。

美しいラインへの
こだわりと技術

例えば、旅館などの屋外で見かける露地行燈。三浦さんは、この天井部から柱、底板の全てを、真鍮の一枚板(厚さわずか0.6mm!)から作りあげます。「錆にも強い真鍮は、やわらかく加工しやすいので、エッジの効いたシャープな線やカーブもきれいに出ます」。それにはまず、真鍮板に刃物で溝を入れて、骨組みとなる部品のあたりをつけます。一本一本の線を、フリーハンドで掻く気が抜けない作業。さらに、切断や曲げ加工にしても、使う機械は手動式が多く、頼りになるのは手と目だけ。その三浦さんの目つきがより厳しくなるのが、はんだ付け、結合の作業です。「板と板の角度をぴたりと合わせ着ける。神経を使いますが、はんだは細かい部分のやり直しがきくので、実は意外と好きな作業です(笑)」。完成時、美しい角の折り目を出せるまでには数年はかかるとか。額に汗が光る職人技の連続です。

求められる
上質なあかりの役割

こうして出来上がった枠組みは、笠貼りや塗装職人の手を経て、最後に灯具を取り付け、ようやく完成です。客人の足元をひっそりと、雰囲気ある露地行灯が照らします。空間の演出を引き出す細部へのこだわりは、見た目の美しさとともに、安全や安心も確保し長く愛用できる上質な照明の証でもあります。「照明は本来目立つことなく、それでいて、温かさや安らぎ、非日常感、快適な明るさまでを提供するもの」と4代目の三浦太輔さん。職人としても良き理解者となり「三浦のあかり」を支える晃嗣さんは「職人仕事のされた照明は、修理ひとつも学ぶことや発見があり楽しいもの。京都ならではの贅を凝らした照明など、昔の職人技術からも日々刺激を受けています」

「路地行燈」ができるまで

私の愛用品

職人の道具は職人自らが作る

三浦さんの「手」となる刃物ややすり。金物職人の師である田附榮之輔さんに作り方を教わり、最初は見よう見真似で作ったそう。
「特殊で細かな加工に使う道具は、既製品もほとんどないので自作します。作業を進める中で、やすりをかけたり研ぎ、サイズや角度などを手直ししながら使っています」。掻きを入れる時のカッターのような刃物、金物の表面仕上げ、研磨に多用するやすり。使う素材や用途によって微妙に違う、金物による金物のための職人道具です。

星のや京都で楽しむ
照明

2009年、星のや京都は築100年の日本建築をリノベーションしオープンいたしました。贅を尽くした竹の建築様式や外観など貴重な意匠の部分はそのままに残し、そこに現代人に合わせたくつろぎのかたちを加えました。星のやのデザインと京都の伝統技術を敷地内で融合していく試みを具現化したのが三浦照明の照明器具です。星のや京都の客室やパブリックスペース、玄関先など、星のや京都の全てを静かに照らしています。

客室

全室リバービューの5タイプ25室は間取りもしつらえも様々。日本の伝統に現代の人が過ごしやすいよう快適性を加えた客室は、歴史ある和の美が存在します。春は桜、夏は新緑、秋は紅葉、冬は雪景色と、大自然の中で四季折々の風情をお愉しみいただくことができます。

水の庭

水音を聴きながらテラスで読書やお茶を愉しめる「水の庭」。さりげなく置かれた照明が、温かさや落ち着きある空間を提供しています。 また、夜の庭を演出する行灯は竹を編んで作られており、職人の技術なくしてはできないものです。

星のや京都

平安貴族が別邸を構えた嵐山、渡月橋から船に乗り大堰川を遡ると、峡谷に沿うように建つ宿が現れます。京都に息づく日本の伝統的な技法を用い、斬新な発想で造った風雅な空間。千年の都が育んできた洗練された文化に浸る水辺の私邸です。

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