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星野リゾートを支える人たちの手しごと VOLUME 10 星のや京都 京唐紙 摺り師 本城武男さん星野リゾートを支える人たちの手しごと VOLUME 10 星のや京都 京唐紙 摺り師 本城武男さん

旅の魅力はその地域にあり
星野リゾートの施設の「個性」を担うのは、その土地を象徴するプロフェッショナル、職人さんや生産者さんの存在です。
彼らの仕事や目指すもの、発信力に着目し、日本各地の未知なる旅へとアプローチします。
文・さとうあきこ

「京唐紙」の美をつなぐ、時空を超えた手仕事の世界「京唐紙」の美をつなぐ、時空を超えた手仕事の世界

本城武男さん

江戸時代から唯一現存する唐紙屋、京都「唐長」の10代目・千田長次郎氏に師事。桂離宮、二条城などの修復、唐紙製作に携わる。その後、山科に「本城紙芸」を開設し独立。「京からかみ丸二」で製作する傍ら、摺り師の後継者の育成、指導にもあたる。平成15年京都市伝統産業技術者功労賞受賞。

    

京都で生まれた日本の唐紙文化

伝統的な和室ばかりか、最近ではモダンな空間を彩り、インテリアや雑貨にも使われる唐紙(からかみ)。その名の通り、奈良時代に中国の唐から伝わった唐紙(とうし)を起源とし、日本文化に深く根をおろしてきた伝統工芸品です。和製の唐紙(からかみ)作りは、平安時代、京の都で始まり、貴族文化に浸透し、寝殿造りの住居や寺院などで使われるようになりました。時代とともに、独自の技術や文様が生まれ、公家や武士、茶人にも好まれる格調高い「京唐紙」へと発展。江戸時代には、京の職人がその技術を江戸へも伝え、「江戸唐紙」として町方庶民にも親しまれるようになりました。京唐紙ならではの、さりげなく上品にその場に溶けこむ優美さは、絵具(えぐ)と和紙、そして版木というシンプルな材料に、熟練した職人の手が加わり、数百年かけて洗練され、今なお磨かれ続けています。

手のひらで摺る、伝統文様の美

唐紙(からかみ・以下同)は、言うなれば木版画の一種で、文様を彫った版木に絵具を乗せ、和紙に文様を写し出すもの。京唐紙の真髄は、鳥の子紙などの高級和紙を用いた、伝統文様の美しさです。この文様に現れる独特の質感や風合いを生み出すのが、絵具の調合と手摺りです。絵具は、鉱物を粉状にした雲母(きら)や顔料に、接着剤となる布海苔などを混ぜたもので、その日の湿度や気温に応じて濃度や色合いを調えます。これを「篩(ふるい)」と呼ばれる唐紙独特の道具で版木に絵具をつけ、和紙に絵具をのせていきます。この時、普通の木版画のようにバレンで擦るのではなく、手のひらで、円を描くように優しく撫でながら色を写します。「その感覚は体が覚えているので、加減をみながら」と話す本城武男さんは、京唐紙の職人として50余年の経験を積んだ、京都随一の摺り師です。熟練した職人の技術、手加減によって、一枚一枚が微妙に異なり、印刷では出せない独特の風合いが生まれるのも、京唐紙の魅力、おもしろさでもあります。

歴史を物語る「版木」は
唐紙の要

唐紙はかつて、その部屋の目的や個性、室礼(しつらい)に重要な役割を果たし、襖障子の文様は、その家の社会的立場や好みによって異なるものでした。この文様の土台となるのが、朴の木を使った版木で、どれも繊細な技の芸術作品。版木の中には、江戸時代の職人が彫ったものも現存し、修復したり、復刻版を製作しながら、大切に使われています。版木のサイズは、12枚で一面の襖になる12枚張り板(約30cm×約47cm)が基本で、例えば襖を1枚摺る場合、紙の下に敷く1枚の版木を12回置き換えながら摺り、これを2度合計24回繰り返し、二度摺りすることで、ふっくらとした、あたたかみのある風合いに仕上がります。「これが結構大変なもの」と本城さん。と言うのも「ここで、版木の位置がわずかでも狂うと、連続する柄が切れたり重なり、使いものになりません」。一見、淡々と繰り返される手仕事ですが、実はとても繊細で集中力を要する作業。本城さんの摺り上がりを見ると、版木の継ぎ目が全くわからないのにも驚きます。

伝統を礎に、発想は柔軟に

京唐紙はその技術とともに、文様や絵具、道具にいたるまで古来の伝統を守り続け、同時に、文様や摺り色(柄色)、紙といった種類豊富な素材には、バリエーション豊かな用途の可能性が秘められています。例えば、100種を超える文様の中から、好みの柄や摺り色(柄色)、それに紙の質や色も指定し、印刷では決して表せない雰囲気のある一点ものをオーダーできるのです。そんな自由度の高さも再認識され、襖や壁紙などの室内装飾に限らず、京唐紙は、空間を彩るアートとして、ホテルやレストランにも使われるようになりました。京都発祥の伝統工芸品でありながら、新しい時代の発想にも寄り添う柔軟な表現も新鮮です。本城さんもまた、若い後継者の指導にあたり、唐紙作りのワークショップの講師を務めるなど、千年を超える京唐紙の伝統と未来を繋いでいます。

京唐紙ができるまで

私の愛用品

文様の美を左右する
「定規とキリ」

絵具の調合後、版木の型に合わせ、紙に印をつける「割り付け」という重要な作業があります。この時使うのが竹定規とキリです。版木はひとつずつ厚みや形も異なり、その日の湿度や天候によって大きさも微妙に変わるので、定規で寸法をとりながら、キリで紙に印をつけます。寸分の狂いなく、版木と紙の位置を決める「割り付け」を行うことで、継ぎ目のない美しい唐紙が仕上がります。

星のや京都で楽しむ
京からかみ

星のや京都は、江戸時代の豪商・角倉了以が邸宅を構えた場所に、100年前に建てられた旅館をリノベーションした「非日常」のリゾートです。日本の伝統に、現代人が過ごしやすい快適性を加えた館内の設えは、歴史ある和の美を備えています。客室の壁紙や襖、ダイニングの障子に使用している唐紙は、すべて「京からかみ丸二」の職人による木版手摺りの「京からかみ」です。京からかみは、星のや京都の滞在に華やかさを加えるだけでなく、京の伝統技を通して、日本文化を再発見するきっかけとなっています。

客室

星のや京都の全ての客室において、壁紙や襖に京からかみの設えが施されています。星のや京都では12種類の京からかみが使用されており、客室ごとに文様や台紙の色合い、質感までも細かく調整されています。また、室内に射しこむ光を受け、顔料に含まれる胡粉や雲母などが、繊細に光り輝き、時間ごとに客室の表情を変え、より客室での滞在を楽しませてくれます。

ポストカード

星のや京都では、ショップにて京からかみの木版手摺りのポストカードを取り扱っています。一枚一枚丁寧に手で摺り上げられており、手に取ると職人技を感じることができます。四季折々の唐紙文様をインテリアとして飾ったり、手紙を書いて大切な方に送るなど、色々な楽しみ方をしていただけます。

星のや京都

平安貴族が別邸を構えた嵐山、渡月橋から船に乗り大堰川を遡ると、峡谷に沿うように建つ宿が現れます。京都に息づく日本の伝統的な技法を用い、斬新な発想で造った風雅な空間。千年の都が育んできた洗練された文化に浸る水辺の私邸です。

https://hoshinoya.com/kyoto/